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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
「そっか。頑張ろうね?」
「うん……。でも、ヴィヴィ……?」
自分の肩下辺りにある妹の顔を覗き込むように、クリスが続ける。
「うん?」
「あんまり気負いすぎちゃ、駄目だよ……? ヴィヴィ、意外とプレッシャーに弱いから、ね……?」
双子の兄のその的確な忠告に、ヴィヴィは「はあい」と素直に頷き、助言を受け入れた。
「いい子いい子……」
クリスは同い年なのにそうヴィヴィを年下扱いすると、その小さな頭を撫で回したのだった。
そう、ヴィヴィは14日後に迫るNHK杯で、優勝することを目標に掲げた。
だから不安要素は徹底的に排除したかった。
念入りにストレッチをし、体幹トレーニングを終えたヴィヴィは、メインリンクへと移動し、ジュリアンの元へと歩み寄る。
「コーチ……」
「ん? どした?」
教え子のヴィヴィの思い詰めた表情に、ジュリアンは少し心配そうな表情を浮かべながら振り返る。
「あの……、NHK杯の音源、今から変更、出来ませんよね……?」
おずおずとそう申し出たヴィヴィに、ジュリアンは迷うことなく首を縦に振る。
「当たり前じゃない。次の中国杯も無理よ」
「そう、ですよね……」
ヴィヴィはそう分かっていながら、もしかしたら裏の手があるのでは? と思い母に確かめたのだ。
試合で使用する曲とプログラム構成は、3ヶ月も前にISU事務局に提出済み。
そして試合はもう2週間後に迫っているのだ。
「ふ……っ 喧嘩中の匠海の演奏なんかで、滑りたくないって?」
「………………」
ジュリアンのその意地悪な指摘に、ヴィヴィは口を噤んで誤魔化す。
SPの『喜びの島』は、兄のピアノ演奏が音源だ。
自分が我が儘を言って多忙な兄に録音して貰ったくせに、ヴィヴィは試合直前になってそれで滑る事に抵抗を覚えたのだ。
「昔はあんなにべったりだったのにね~。最近はしょっちゅう、喧嘩してるのね。まあ、それはそれで、いい傾向か……」
てっきり「やっぱりヴィヴィは甘ちゃんねえ?」と馬鹿にされると思ったのに、母のその言葉にヴィヴィは驚いた。
「え……?」
(いい傾向……? ヴィヴィとお兄ちゃんが、喧嘩することが……?)