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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
「だって昔のあんたったら、『匠海は全て正しい』、『匠海が規範』って感じだったもの。ずっとそのままだったら、逆に心配よ……。そりゃあ大人になったら、反発するのが当たり前だもの」
そう言って、何故か娘のおでこに“でこピン”してくる母に、ヴィヴィはおでこを押さえながら唇を尖らせる。
「……ふうん……」
娘のその適当な反応に苦笑しながら、ジュリアンは忠告した。
「ああみえて、匠海も結構不器用なところ、あるからねえ……。表ではうまく立ち回ってても、裏では四苦八苦してたり……。ああ、白鳥みたいなものね。水上の姿は美しいけれど、水面下じゃばたばたしてるっていう……。とは言え、まあ、程々にしておきなさいよ?」
そしてその日の夜。
ヴィヴィは自分のベッドの中で、その母の言葉を思い出していた。
兄の声を、寝室の扉越しに聞きながら。
「ヴィクトリア……。まだ、俺の顔は、見たくもないかな……」
(全く以て見たくないです……。って言うか、一生会いたくないです……)
ヴィヴィは匠海の小さな問い掛けに、そう心の中で返す。
どうやら兄は、わざとヴィヴィの視界に入らないようしているらしい。
まあそうは言ってもこういう状況になる前から、元々双子と匠海の生活パターンは余りにも懸け離れていて、互いに意識しないと顔を合わせて話す時間すら、取れない状況だったのだが。
「俺は、ヴィクトリアの顔、見たいよ……」
(そんなの、ヴィヴィの知った事か……っ)
勝手に夢想してろっ とヴィヴィは心の中で口汚く兄を詰る。
「ちゃんと、食事、採れてるね……? ちゃんと、夜、眠れているね……?」
返事の帰って来ない相手に、そして起きているかどうかも定かでない相手に、よくも連日これだけ話し掛けられるものだと、ヴィヴィは妙に感心した。
(ちゃんと食べてるし……。逆にお兄ちゃんが毎夜こうして来なければ、ヴィヴィもっと熟睡出来るんですけど……)
そのヴィヴィの心の声が届いた様に、兄は優しい声で就寝の挨拶をしてくる。
「じゃあ、おやすみ……。ヴィクトリア、愛しているよ……」
(…………うざい)
ヴィヴィはその一言で兄の言葉の全てを切り捨てると、その足音が遠ざかっていくのを耳をそばだてて確認し、ほっと息を吐いた。