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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
鳴り止まない拍手。
自分を迎え入れてくれる、コーチとクリスの満足そうな顔。
それら全てを頭の中で思い描いたヴィヴィは、美しく整えた睫毛を湛えた目蓋を、ゆっくりと上げた。
「OK?」
柿田トレーナーのその確認に、ヴィヴィは大きく頷く。
iPodでSPの曲を聴きながら、ミーティングルームを出て、メインリンクへと入る。
ヴィヴィの前に滑っているのは、こちらも本番を想定したリハーサルを行っているクリス。
ヴィヴィはそのリンクサイドで目蓋を閉じる。
イヤフォンから流れてくるのは、匠海のピアノ。
もうしょうがない。
何も考えない様にするしかない。
やはり、他の演奏と聞き比べても、素晴らしいから――兄のその演奏は。
クリスの演技が終わり、ヴィヴィがリンクに入る。
充分時間を取って身体を温めると、羽織っていたジャージを脱ぎ、リンクの中央付近でポーズをとる。
ふっとひとつ大きく息を吐く。
大丈夫だ。
うまく、やれる。
もう自分には、スケートしか、ないのだから――。
そう心に刻んだヴィヴィは、響き始めたトリルに、ふっと頬を綻ばせた。
「ん~。双子は2人とも、いい感じ~」
ジュリアンのその間延びした様にも聞こえる評価に、双子はほっと互いの顔を見合わせた。
「だ~け~ど~、下城・成田ペアっ!! あんたら、後半グダグダ過ぎっ! 何なのよ、あのリフトはっ!!」
次いでジュリアンに怒鳴られたのは、双子のリンクメイト――ペアスケーティングの下城舞・成田達樹。
互いに22歳同士で、現在世界的に活躍している棚橋成美・マーヴィン藤堂ペアの後継として、期待を寄せられている。
彼らも双子と一緒にNHK杯に参加するのだが、どうも今日のSPのリハは上手く行かなかったらしい。
「「す、すみません……」」
2人してしょげた顔をするペアを、双子は何とも言えない表情で見守っていた。