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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
土曜の練習は、早朝から朝食とランチを挟んで、お昼過ぎまで。
双子はフィットネスルームでストレッチを済ませると、それぞれ更衣室へと着替えに行った。
誰もいないそこには昼下がりとはいえ闇が下りており、ヴィヴィは壁の照明パネルに手を伸ばした、が――。
背の高いロッカーが立ち並ぶその奥、女性の哀しげな啜り泣きが聞こえてきて、ヴィヴィはびくりと震えた。
(ゆ、幽霊……?)
根っから怖がりのヴィヴィは、一瞬そう早とちりしたが、すぐにその泣き声の主に気付き、照明を点けると静かに近付いた。
「舞……ちゃん……?」
ロッカーの前に置かれた長椅子の上、両膝を抱え込んで泣いていたのは、ペアの下城舞だった。
「……ヴィヴィ……」
ゆっくり顔を上げた舞は、後ろに立ったヴィヴィを真っ赤になった瞳で見返す。
舞は目がとても大きい。
自転車に乗っていたら、百発百中、虫が目に入るらしい。
そのくりくりの大きな瞳が真っ赤に充血している様は、見ているヴィヴィの胸も苦しくさせた。
「どぉ~したの~ぉ~っ なかないでぇ~~っ」
何故かヴィヴィの方が泣きそうな声でそう舞に尋ねれば、その様子が可笑しかったのか、舞は一瞬苦笑した。
「あは……。ごめん、こんなとこで、泣いてっ」
「全然いいけど……。あ、そろそろ、ジュニアの子達が、どっと押し寄せる時間……」
ヴィヴィは壁掛け時計を見てそう気付くと、舞の手を引いて更衣室を出て、すぐ近くのミーティングルームに招き入れた。
そして「使用中」のプレートを出すと、ソファーに舞を座らせ、ダッシュで自販機まで飲み物を買いに行って戻ってきた。
「ぜえぜえ……。オレンジジュースと、炭酸と、ミルクティーと、ドクターペッパーと、アイスコーヒー、どれがいい?」
「え……。そんなに、買ってきてくれたの……?」
細い腕の中に5本ものペットボトルを抱えて戻ってきたヴィヴィに、舞は大きな目をさらに見開いた。
「な、泣いてる時に何が飲みたいか、想像つかなかった……」
そう本音を漏らしたヴィヴィに、舞はまた笑ってくれた。
「あはは。じゃあ、炭酸、貰おうかな?」
「うん。どうぞ!」
炭酸を手渡したヴィヴィは、自分はオレンジジュースを選び、その隣に腰掛けた。