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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第20章
「寒っ……」
プルコヴォ空港に降り立ったヴィヴィは、ぶるりと華奢な体を震わせた。
ゴールデンウィーク初日、ロシア第二の都市――サンクトペテルブルクに振付のために到着した双子だったが、東京より五度ほど涼しい気候のために寒さを感じたのだ。
隣のクリスも寒そうに首を竦めると、ヴィヴィを見下ろして「大丈夫?」と確認する。
頷いてみせたヴィヴィの目の前では双子の執事の朝比奈が車を手配するために電話をしており、傍らにはNHKの三田ディレクターがカメラ片手に撮影していた。
今回の旅行はこの四人だけである。
「ロシアに来るのは一年ぶり?」
三田の問いかけに、双子が頷く。
「去年振付に来た以来……かな?」
「今シーズンのグランプリ・ファイナルはロシアだから、今年は少なくとも二回は渡露することになるのかな……?」
クリスの問いかけに、ヴィヴィは
「グランプリシリーズを勝ち抜けたら……だけどね」
と困ったように笑った。
「その為には、素敵なプログラムを振付けてもらわないとね――?」
三田の問いに、双子は首肯する。
「どんなものになるか、楽しみ……」
と前向きな言葉を述べたクリスに対し、ヴィヴィの返事は重かった。
「……私は……最後まで諦めない――」
そう言ってぐっと唇を引き結んだヴィヴィは、サンクトペテルブルクの五月晴れした空を仰ぎ見た。
空港からリンクへと直行すると、挨拶もそこそこにジャンナはクリスのSP――ピアソラのアディオス・ノニーノを振付け始めた。
クリスは彼の希望通りの曲を使用することをジュリアンが許可していたため、ジャンナは前もって振付を考えていたようだ。
淀みなく進む振付を横目で見ながら、二人と同じリンクでヴィヴィは流していた。
「………………」
(バースデーパーティーの後、ジャンナにサロメの演技映像をメールしたけれど……何の返事もなかった――)
『諦めない――』
そう言ったヴィヴィだが、結局ロシアに来てもジャンナを説得できる自信は半々というところだった。
(とにかく、一度、生でプログラムを見てもらおう――)
アップを終えたヴィヴィはクリスの曲が鳴るリンクの中、頭の中で曲を再現しながらサロメの振り付けを確認しだす。