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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第20章
暫くすると周りにいたスケーターやその付添い、コーチ達が次第にヴィヴィの滑りに吸い付けられるように注目し始めた。
ヴィヴィは人口密度の高いリンクの中、器用に人を避けながらプログラムを滑っていく。
(やっぱり……しっくりくる――)
サロメを滑ると、自分が自分でないような感覚に襲われる時がある。
自分に何かが憑依しているかの様に、ある意味心の中が『無』になる――。
世界レベルの期待の新星としてヴィヴィに向けられる周りの視線など、気にもならなかった。
そしてその一部始終をクリスの振付けをしながら観察していた、ジャンナの視線にも――。
数時間後。
クリスのSPの振り付けをあらかた終えた双子は、カフェでミルクティーを飲んで暖を取っていた。
ジャンナはそんなヴィヴィを見つけると、ミーティングルームへと連れて行った。
「観たわよ……ヴィヴィのサロメ――」
ヴィヴィにソファーを勧めた直後、ジャンナはそう発した。
(………………っ)
「どう……でしたか――?」
ヴィヴィは恐る恐る、そう口を開く。
ジャンナにまで頭ごなしに「駄目」と言われたらどうしよう――その気持ちから薄い唇が震えそうになるのを、ヴィヴィは口を引き結んで耐える。
ジャンナはそのふくよかな体をヴィヴィの向かいのソファーに沈めると、視線を宙に彷徨わせた。
「どうって……そうねえ……困ったわよ、とっても――」
「………………?」
(……困った?)
ジャンナの予想外の返答に、ヴィヴィは首を傾げて見せる。
話にならないほど駄目な振り付けだったら、こんな返答はしないであろう。
ということは、少なくとも「サロメ」には何かジャンナの心に響くものがあったのかと、ヴィヴィは期待を込めた瞳で彼女を見つめた。
そんなヴィヴィの必死な視線を受け止め、ジャンナは一瞬おいて苦笑した。
「ふふ……。本当に、真っ直ぐなのね、ヴィヴィは……。良くも、悪くも――」
「え……?」
悪くも――とはどういう意味だろう……と不安げな表情を浮かべたヴィヴィに、ジャンナは肩を竦めて見せる。
「ヴィヴィには『ジゼル』を用意していたの――」
「ジゼル……ですか――」