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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
各々開封して飲み始めたはいいが、その後は話が続かなかった。
「………………」
ヴィヴィは、なんで舞が泣いているのか想像してみる。
(たぶん、さっきのSPのリハが上手くいかなかった、から……?)
それしか思い付かず、ヴィヴィはSP用の口紅を塗った唇を開く。
「えっと……、まだ、時間、あるよ……?」
「……え……?」
「ん~と、NHK杯まで……。だから、元気、出して……?」
ヴィヴィは、そう月並みな事を言ってみる。
なにせ明日は、双子も下城・成田ペアも、FPのリハをやるのだ。
凹むだけ凹んだら、今日中に浮上しないと、明日のリハにまで影響が出てしまう。
ヴィヴィもそれはジュニアの頃から何度も経験している事なので、そうあえて口にしたのだが。
「……うん。そうだね……」
そう静かに返してきた舞は、ヴィヴィから視線を外すと、両手で包んでいたペットボトルへと視線を落とした。
(あれ……? SPの事じゃ、ない……?)
舞の反応の薄さに、ヴィヴィは内心首をひねる。
他に彼女の心を暗くする事が、あっただろうか?
舞は双子より5歳上の22歳。
パートナーの達樹と同じ早稲田大学に在籍しており、来年からその院へと2人揃って進む事まで決定している。
双子と同じ時期にシニアへと上がり、3年目の今シーズン、順調に調整は進んでいるようだったし、いつも笑顔でリンクにも通って来ていた筈。
「……達樹くんと、ケンカでも、した……?」
ヴィヴィが他に思いつく理由など、それ位しかない。
なにせ、“ここ”で泣いているのだから、スケート関係の事で何か悩んでいるのだろうし。
「……――っ ぅう……っ」
ジャージに包まれた細い肩を、びくりと震わせてまた泣き始めた舞に、ヴィヴィは両掌をわたわたして焦る。
「あ、ごめんっ えっと、その……っ」
(ああ、ヴィヴィの馬鹿……っ 余計泣かせてどうする~~っ)
そう自分を叱咤しながら彼女の背中を擦り始めたヴィヴィに、舞はぽつぽつと話し始めた。
「た、達樹が……っ め、面倒くさいって……っ ぅ~~っ」
「……え? 面倒、くさい……? って、何が?」
ヴィヴィは背中を撫でる手を止めて、舞の顔を覗き込む。
「……実は――」