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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章            

 目頭が熱くなり、ヴィヴィはギュッと目蓋を閉じる。

 どうして欲しいのか、解らない。

 兄に、自分に対して、どうして欲しいのか、

 兄に、何を求めているのか、

 もう、何も求めていないのか、

 それさえも解らない。

 自分の事、なのに――。
 
 ヴィヴィは大きく息を吐き出そうとし、慌てて唇を引き結んだ。

 すぐ傍で眠るクリスの安眠を、さまたげたくない。

 自分の半身、片割れ、大切な双子の兄。

 今の自分は、そのクリスに何も与えられないのに、甘えてばかりいる。

 ヴィヴィは今一番苦しいのは、一刻前まで “自分” だと思っていた。

 けれどそれは、とんでもない間違いだったと気付いた。

 今一番苦しいのは、

 匠海でもなく、

 ヴィヴィでもなく、
 
 2人の関係を知ってしまった、クリス――。

 双子の兄は恐らく、兄と妹は両想いで、何故か分からないがしょっちゅう喧嘩をしていると思っている筈。

 家族と周りを裏切りながらも、恥の上塗りをするように迷惑と心配を掛け続けるヴィヴィを、クリスは一体どんな思いで、こんなに優しくしてくれているのだろうか。

(ごめんなさい……。クリス、本当に、ごめんなさい……っ)

 ヴィヴィの華奢な身体が、小刻みに震え始めた。

 もう本当に自分が情けなくて。

 周りに迷惑を掛ける事しか出来なくて。

 自分は誰も幸せに出来ていないし、

 全然周りが見えていない。
 
 灰色の瞳から零れる涙は、ただただ懺悔の為のもの。

 こんな涙、絶対にクリスは望んでなんかいないのに。

 自分が笑っている事を、幸せでいる事を、心から望んでくれる、本当に優しい人なのに。

 自分はそんなクリスを、どれだけ利用したら気が済むのだろう――。

「………………っ」

 ぎゅっと拳を握り締め、今はとにかくクリスを起こさない様に、零れそうになる嗚咽を堪える。

 そしてその頭の中では、必死に今の自分に出来る事を考えた。

 クリスの為に、今、自分は何が出来て、

 自分がどうすれば、クリスが安心してくれるか。

 それだけをずっと、ヴィヴィは意識が眠りに就くまで、考え抜いたのだった。 




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