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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
(うふふ、達樹くんたら、照れちゃって……っ)
ヴィヴィが更ににんまりしていると、フィットネスルームのドアが開かれ、サブコーチが顔を覗かせた。
「お前ら、今日はFPのリハだぞ~? いつもより念入りに、ストレッチしとけよ?」
瞬時に現実へと引き戻したサブコーチのその忠告に、そこにいた4人は声を揃えて返事した。
「「「「はいっ」」」」
日曜日のこの日。
昨日に引き続き、7時間のリンクでの練習、7時間の勉強を終えた双子は、就寝準備前の唯一の自由時間、各々で過ごしていた。
ヴィヴィは無性にヴァイオリンを触りたくなり、1人防音室にいた。
調弦し、基礎練習を熟したヴィヴィは、壁際の書棚から1つの譜面を取り出し、譜面台にセットする。
その前に立ち、左肩に乗せたヴァイオリンの上に、ゆっくりと弓を構える。
シンプルに主旋律だけを謳い上げるヴィヴィのヴァイオリンが、誰もいない広い防音室に染み渡るように降りる。
腹の底から歌うように弓を運び、
咽喉を震わせるように、弦を押さえた左指を震わせる。
1つの山の様な旋律の塊に、美しいビブラートが奥深い響きを与える。
ヴィヴィが奏でるのは、FPで滑る『サムソンとデリラ』のオペラから、
“あなたの声に私の心は開く”
それはデリラという美女が歌うアリア(独唱曲)の1つ。
とても有名な美しい歌曲で、声楽のコンサートでもよく歌われるものだ。
ヴィヴィはフランス語の歌詞を頭の中に浮かべながら、抒情的に歌い上げていく。