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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
ちょうど先週の今日、自分は兄と葉山の別荘へと行った。
そしてその翌日の朝、妹のリビングでヴィヴィの風呂上りを待っていた兄と顔を合わせたのが、確か最後で。
その日以降、一度もその姿をこの瞳に収めてはいなかった。
ふっと小さな息を吐いたヴィヴィの脳裏に、先ほどヴァイオリンで演奏した “あなたの声に私の心は開く” の一説が甦る。
麦の穂が そよ風に 波打つように
私の心は 震えるのです
あなたのやさしい声に 慰めてもらおうと
「……~~っ」
ヴィヴィの金色の頭が、暗闇の中でふるふると横に振られる。
違う、そんなこと、思ってなんかない。
自分は兄の声を、優しい言葉を求めてなんかいない。
そう否定する自分がいる一方、正反対の主張をする自分もいる。
本当は、心の底では期待しているんじゃないの?
お兄ちゃんに、優しい言葉を掛けて貰うのを。
お兄ちゃんに、心配して貰うのを。
お兄ちゃんに、「愛しているよ」と毎日囁いて貰うのを。
(……っ 違う、違うっ ちがう……っ)
ヴィヴィは、本当にそんな事、期待してなんて――。
小さな頭の中で2人の自分が、正反対の主張を喚き合っている。
両者の言い分が五月蠅くて、ヴィヴィは両手で自分の頭を掻き毟ろうとし――。
その細い両手首が誰かに掴まれ、ソファーの座席部分にヴィヴィの身体が押し倒された。
「……え……っ!?」
あまりにも突然で予想外の事に、ヴィヴィは掠れた声でそう呟き、暗闇に慣れた瞳で圧し掛かってくる相手の顔を仰ぎ見る。
「本当に、馬鹿な子だね、ヴィヴィは」
上から降ってきたのは、心底呆れ返ったようにも聞こえる、厳しい声。
ヴィヴィは上から睨み下ろしてくる相手の名を、恐るおそる口にした。
「……クリ、ス……?」
「それとも、僕に怒られたくて、ワザとこういう事をしているのかな?」