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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章            

 ヴィヴィは咄嗟に慰めたくなって、その頬に手を伸ばそうとしたが、その手首を当のクリスに握られていた事を思い出す。

 ならば自由なこの口で、クリスを労わりたいと思い唇を動かそうとした時――、

「出来ない事は、口にするんじゃないよ」

 そう厳しい声で妹を牽制したクリスに、ヴィヴィは困惑してその名を呼ぶ。

「…………ク、リス?」

(出来ない事…… って……?)

「行くよ」

 そう短く命令したクリスは、妹の両手首を開放してソファーから降りると、ヴィヴィと右手を繋いで寝転がっていたそこから立たせた。

 手を引かれるまま、あれよあれよとクリスに3階まで連れて行かれたヴィヴィは、彼の寝室に引き摺り込まれた。

 まるで突き飛ばすように、ヴィヴィを足の高いベッドに横にさせたクリスは、その隣に身を横たえ、互いの上に羽毛布団を被せた。

 そして枕に頭を乗せたその体勢で、目の前のヴィヴィを睨み付ける。

「次、嘘を吐いて逃げたら、本当に許さないよ」

「………………っ」

「おやすみ、ヴィヴィ……。僕の可愛い妹」

 そう囁いたクリスの声音は、いつもの優しいそれだった。

「…………おやすみ、なさい」

 一連の流れに、クリスの感情の起伏に、その振る舞いに、頭と心が追い付かないヴィヴィは、取りあえずそう就寝の挨拶を返し。

 ゆっくりと下されていく双子の兄の目蓋を、ぼうと見つめていた。

 双子がどちらも口を開かなくなり、広い寝室にはしんと静寂が下りていた。

 紺色のリネンに覆われた羽枕に沈むクリスのその顔が、心なしか顔色が悪く見える。

 それが本当に血色が悪いのか、はたまた、リネンの色にその肌の白さが強調されてそう見えるだけなのか、ヴィヴィは判断が付かず、ただただその寝顔を心配そうに見守るばかり。



『双子の兄でもない、 “ただの男となった僕” を、

 ヴィヴィは受け入れられるとでも言うの――?』



 どういう、意味だったのだろう。

 兄ではない、クリス……?

 ただの男となった、クリス……?

(どういう、こと……?)

 ヴィヴィは途方に暮れて、視線を彷徨わせる。

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