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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
自分は知らない。
兄でないクリスを、
双子の片割れでないクリスを、
自分は、知らない――。
それを受け入れるって、一体、どういう意味……?
「………………」
自分のすぐ目の前で、既にす~す~と気持ち良さそうな寝息を立てている、双子の兄。
クリスのその顔を、ヴィヴィはまじまじと見つめ直した。
男子にしては長い睫毛は色濃く、
すっと通った細めの鼻は、パッと見た印象よりも意外と高い。
前から見た彫りの深さと、横から見た彫りの深さのギャップは、
真正面の幼さの残る印象と、横顔の意外と大人びた顔つきで、
見ているものにはっとさせる、どこかその年齢特有の、危うさや脆さが滲み出ている。
薄い唇も、その顎の細さも、耳の形も、
全てが似通っている。
――他でもない、自分自身と。
なのに、頭の中身はまるで違う。
考えていることが、全く違う。
そんなことは当たり前で、物心付いた頃から、自分達が一番分かっていた事なのに。
「…………クリス」
双子の片割れなのに、
大切な半身なのに、
愛おしい兄なのに、
彼が――クリスが、何を考えているのか、ヴィヴィには全く解らなかった。
10月5日(月)。
頭を撫でられる掌と、髪を梳かれる指先の感触。
その優しく暖かなものに誘発されて、ヴィヴィは目を覚ました。
寝起きで少し霞む視線の先、目の前に横たわったままのクリスがこちらを見つめていた。
「おはよう、ヴィヴィ……」
「……おは、よう……」
ヴィヴィはいつも通りそう挨拶を返したが、その数秒後、違和感を覚えた。
(あれ……、クリス、寝起き、超悪いのに……。自分で起きたの……?)
「今日も、可愛いね……」
そう囁きながら恐らく くしゃくしゃであろう長い髪を、クリスが撫でて整えてくれる。
「………………」
ぼ~と自分を見つめ返している妹を、クリスが呼ぶ。
「ヴィヴィ……?」
「な、に……?」
「呼んで、みて……?」
「え?」
ヴィヴィは大きな瞳を、ぱちぱちと瞬かせる。
(呼ぶ…… って、何を?)