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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章            

 ゆっくりと上半身を起こしながら、クリスがヴィヴィを見下ろしてくる。

 ヴィヴィも上半身を起こすと、目の前のクリスに対峙した。

「……ありが、とう……」

 そうぽつりと呟いたヴィヴィに、クリスは続ける。

「何が……?」

「………………」

 クリスのその返しに、ヴィヴィは硬直した。

 何が、ありがとう?

 何に、ありがとう?

 ――分からない。

 目の前で石の様に固まって動かないヴィヴィを、クリスがぽんとその頭を撫でる。

「ほら、自分の部屋で準備、しておいで……」

「うん……。玄関で、ね?」

 そう呟いたヴィヴィは、クリスに続いて彼のベッドから降りた。





 いつも通り朝練にリンクへ赴き、登校した双子は、自主勉強に学園祭の準備に励んだ。

 そしていつも通り帰宅し、受験勉強を熟すと、ディナーを採ってから夜練へとリンクへ向かい、へとへとになるまで自分を追い込んで練習した。

「ふわわ……。じゃあ、おやすみ、ヴィヴィ……」

 大きなあくびをしたクリスと、就寝のハグとキスを交わしたヴィヴィは、「おやすみなさい」と挨拶して自分の私室へと戻った。

 足湯をし、就寝準備を整えたヴィヴィは、日課としている短い日記をつけながら、自分で入れたハーブティーを飲んでいた。

「今日は、ジャーマン・カモミール、ですか?」

 朝比奈のその柔らかな声に、ヴィヴィはふっと微笑む。

「うん。青リンゴの香りはいい感じなんだけど、味があんまりないね~」

 ヴィヴィは薄黄色の液体を、くんくんと嗅ぐ。

 爽やかで瑞々しくてほっとする香りだ。

「次回は他のものと、ブレンドされては如何でしょう? オレンジピールにシナモン、相性がいいですよ」

「あ、それ、すっごく美味しそう」

 ヴィヴィが明るい声で、そう朝比奈の提案に乗った時、

 コンコンと少し硬めのノック音が、ヴィヴィのリビングに響いた。

 ヴィヴィはさっと視線を、音がした方へと向ける。

 兄の――匠海との部屋を繋ぐ、その扉へと。

「………………」

 ヴィヴィの傍に居た朝比奈が、静かにそちらへと近付き、扉を開ける。

 そこに立っていたのは、朝比奈よりも背の高い匠海だった。

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