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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章            

「……なに、するの……?」

 そう発した自分の声が震えている事に気付き、ヴィヴィは悔しくなって眉を微かに潜めてしまった。

 兄は気付いただろうか。

 今の自分が匠海に対して、心底脅えているということに。

「何でも。その日あったことを話したり、一緒に居るだけで……何でもいい」

「………………」

 匠海のその返事に、ヴィヴィは黙り込む。

 毎日10分。

 互いの近況を伝え合い、一緒に時を過ごす――そんな “下らない事” を、目の前の兄は自分に望んでいるらしい。

(…………、なんで……? なんで、今更、そんなこと……?)

 ヴィヴィは心底困惑する。

 あんなに自分の心も躰も、隅々まで貪り尽くしたくせに。

 そしてその幼い躰に、近親相姦という爛れた関係に、興奮し溺れきってしまっていたくせに。

「嫌か?」

 うんともすんとも返事を寄越さない妹に、兄は静かな声で尋ねてくる。

「2人っきりになりたくない」

 ヴィヴィはそれだけはきっぱりと意思表示した。

 5人きりのこの家族の中で、その内の2人が顔も合わさず声も交わさない。

 その今の異常な関係性を、ヴィヴィだって良しとしてきた訳じゃない。

 現にクリスや朝比奈達に気を使わせ、心配と迷惑を掛けているのは事実だし。

 両親だって何も言って来ないが、きっと心底心配してくれているのだろう。

 ヴィヴィだってそんな事は分かっているのだ。

 けれど、もう兄と2人っきりになるのは嫌だ。

 というか無理だ。

 恐い。

 何にかは解らないが、怖いのだ。

 匠海と居る事が――。

「じゃあ、朝比奈か五十嵐にいて貰えばいいよ」

 そう最大限の譲歩してきた匠海に、ヴィヴィはしぶしぶ頷いた。

「……いい、よ……。10分、だけ、なら……」

 ぼそぼそとそう零したヴィヴィだったが、その言い方はまるで「本当はすっごく嫌だけど、そっちがそこまで言うのなら、懇願するのなら、しょうがないからいいよ」と言っているそれだった。

 そんなガキ丸出しの妹に返された兄の返事は、心底嬉しそうなものだった。

「ありがとう。愛しているよ、ヴィクトリア」

 そう囁いてとても幸せそうに微笑んだ匠海に、ヴィヴィは文字通り絶句した。

「………………っ」

(な、なんで……っ こんな事、くらい、で……?)

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