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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
大きな瞳を真ん丸に見開いたまま硬直したヴィヴィに、兄はふっと微笑むと、
「じゃあ、明日な? おやすみ」
そう妹に言い置いて、リビングを出て行ってしまった。
後に残されたヴィヴィは、ぽかんとその場に座り込んでいた。
そしてその背後に控え、兄妹のやり取りの一部始終を見ていた、朝比奈の反応も同様だった。
(な、なんなの……?)
ヴィヴィは今目の前で目にした匠海の姿に、呆気に取られていた。
あんな兄は見た事が無かった。
あんなに幸せそうに微笑む兄を、ヴィヴィは見た事が無かった。
(な……、何がそんなに、嬉しいの……?)
ヴィヴィには全然分からない。
妹である自分と、明日から毎日10分、どうでもいい事を話すだけなのに。
「………………」
(やっぱり、ヴィヴィには、お兄ちゃんの考えていること、解んないんだよ……。だってヴィヴィ、馬鹿だし……。お兄ちゃんは、死ぬほど頭いいけど、やっぱり変態だし……)
もはや兄を解ろうとする努力をする事すら無駄――とでも言いたげに、ヴィヴィは華奢な背をぼすりとソファーの背凭れに投げ出した。
(もういいや、解んなくて……。解ったところで、この先、何が変わる訳でもないし……)
自分の心の中には、もう匠海に対する恋心は無い――ヴィヴィはそう思っている。
だから、もう解らなくてもいいのだ。
兄の考えている事なんて。
兄の憂いている事なんて。
兄の望んでいる事なんて。
解ったところで、今の自分にはもう、関係ない。
ふっと大きく息を吐いたヴィヴィの傍、いつの間にか寄っていた朝比奈が、ティーコーゼに包またガラスのポットにまだ残っていたハーブティーを、空のティーカップに注いでくれる。
とぽとぽと暖かなその音に心惹かれ、ヴィヴィはカップに手を伸ばして口付けた。
「…………わけわかめ……」
そうどこで仕入れて来たのか分からない死語をぼそっと零した主に、ティーポットを手にしたままの朝比奈が話し掛ける。
「お嬢様。ジャーマン・カモミールの花言葉……知っていらっしゃいますか?」
「え……?」
朝比奈の突然のその質問に、ヴィヴィは首を傾げる。