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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第96章
今ヴィヴィが飲んでいるハーブの花言葉。
そんな事を知ろうとも思った事の無いヴィヴィは、もう一度首を傾げて朝比奈を見上げた。
「『逆境に負けない強さ』……と言うのだそうですよ」
「……『逆境に負けない強さ』……?」
ヴィヴィはその花言葉を、自分でも口にしてみる。
「ええ」
そう頷いた朝比奈の表情は、何故か複雑で、色んな感情が滲み出ているようだった。
それをじ~っと見つめてくる主に気づき、執事は誤魔化す様にふっと笑い、テーブルにポットを置いた。
ヴィヴィはカモミールの小さな花が沢山入ったそのポットを見つめながら、頭の中でもう一度花言葉を繰り返す。
『逆境に負けない強さ』
逆境――苦労の多いその境遇。
「………………」
(逆境。
逆境……?
逆境……、……ねえ?
ん……?
ヴィヴィ、今、逆境に立たされてる、のかな……?)
まるで冗談でも考えているかのような軽さで、ヴィヴィはそう思うと、「う~~ん」と両腕を胸の前で組む。
「…………分かんない」
そうぼそっと結論を溢した主に、傍にいた朝比奈から「ふっ」と忍び笑いが聞こえた。
「……今、笑った……?」
恨めしそうにそう唸りながら、自分の執事を半眼で睨んだヴィヴィに、朝比奈が破顔する。
「ふふ。お嬢様は、何と言いますか……面白い、です」
「……面白い……。それ、褒めてる……?」
不服そうに艶々の唇を尖らせるヴィヴィに、朝比奈はにっこりと微笑んだ。
「ええ。私にとっては最大限の褒め言葉ですよ」
「…………ふうん」
ヴィヴィのその適当な返しに、また朝比奈が笑う。
(ふんだ……。どうせヴィヴィは、笑われ者なのさ……。そういう運命のもとに、生まれたのさ……)
よく分からない事を拗ねながらも、ヴィヴィのその胸の奥では1つの想いが浮かんでいた。
匠海と逃げずに向き合うこと――。
それが、いつも無償の愛を捧げてくれるクリスへの恩返しの為に、
今の自分に出来る、唯一の事かもしれない。
(たぶん……、きっと……、恐らく……、それが一番の、近道な気がする……)