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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第20章                     

 自分の醜い欲求をコントロールできない……なんて愚かな自分。けれど――、

「決めたのね……自分の気持ちを貫き通すって――」

 ヴィヴィの様子を見守っていたジャンナが、まるでその心を代弁するようにそう言葉にした。

(ジャンナには、全て……何もかも、お見通し――)

「はい……」

 ヴィヴィのその返事は、掠れていたが決意を感じさせる強いものだった。

「そう……」

 ジャンナはそう呟くと、口を噤んだ。

 大きなお腹の上で組んだ両手に、一瞬ぎゅっと力が加えられたように見えたのは、気のせいだろうか――。

 二人が黙り込み静寂が降りたミーティングルームに、廊下の足音や氷を削る音、話し声といった音が浸み込んでくる。

 そういった日常の生活が繰り返されている外界と、壁一枚だけ隔てたこの空間で繰り広げられている非日常的な会話のやり取りに、ヴィヴィは一瞬不思議な感覚を覚えた。

 人の道に外れたことをしようとしている自分を、今までの中で一番肌で感じた時でもあった。

「軽蔑、しますか……?」

 静寂を破り自嘲気味に小さく嗤ったヴィヴィに、視線を上げたジャンナがふと眉を潜めた。

「……軽蔑……? 私にヴィヴィのことをそんな風に判断する権利は、無いわ……。それにもし私が今『ヴィヴィを軽蔑する』と言ったとして、ヴィヴィの気持ちはそんなことで変わるの――?」

「………………」

「もし他人の評価で覆すことができるような『思い』なら、そんなもの――とっとと捨ててしまいなさい。そのほうが周りの幸せを守れるということぐらい、分かっているのでしょう?」

 ジャンナの厳しい言葉に、ヴィヴィはぐっと喉が締め付けられたような気がした。

「………………」

(私がお兄ちゃんに気持ちを伝えなければ……お兄ちゃんを困らせることも、苦しませることもないだろう……。そして、私は自分の気持ちを告白することで、ダッドやマム、クリスを裏切ることになる――)

 果たして今の自分に、周りを全て裏切り敵に回したりしてまで思いを貫く強い気持ちがあるのか――ヴィヴィは躊躇なく「YES」とは言えない自分もいることを知っている。

 だからと言って、もう自分の中だけに兄への気持ちを抑え込めなくなっていることも――。

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