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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第20章
ヴィヴィは落としていた視線をゆっくりと上げると、ジャンナの瞳と視線を合わせた。
「今シーズン……サロメを演じながら、自分の心と向き合いたいと思っています。ただ今、確実に言えることは――」
ヴィヴィはそこで言葉を区切ると、ぐっと背筋を伸ばす。
「今の私は『ジゼル』よりも『サロメ』の魂のほうに共鳴している、ということだけです……」
そう言い切ったヴィヴィの表情を見つめていたジャンナの瞳には、一言では言い表せない色んな感情が浮かんでは消えていくのが分かった。
ジャンナは数分ほど微動だにせずヴィヴィを見つめていたが、やがて大きく瞬きをすると「よっこいしょ」と言ってソファーから立ち上がった。
「さ。行くわよ……」
ジャンナがそう言って、座ったままのヴィヴィを見下ろす。
「え……どこへ……?」
ヴィヴィはジャンナがどこへ行こうとしているのか分からず、思わず聞き返す。
「どこって、リンクに決まっているでしょう? まったくヴィヴィの振付ったら、現行ルールを全く加味してないんだもの。無駄が多いし洗練されてないの!」
両脇に手を添えて苦笑いして見せたジャンナに、ヴィヴィの瞳がみるみる輝いていく。
「ジャンナ……それって――!?」
「ほらっ、早く立って! 時間は限られているのよ。さっさと『ヴィヴィのサロメ』をブラッシュアップするわよ――!」
両手をパンパン叩いて追い立てるジャンナに、ヴィヴィはぱっと立ち上がると大きな体に飛びついた。
「ジャンナっ!! ありがとう! 大好きよ――!!」
ヴィヴィが飛びついてもびくともしなかったジャンナはポンポンとその背中を優しく叩くと、すぐにべりっと音がしそうな勢いでその体を引きはがした。
そしてヴィヴィの華奢な腕を掴むと、ミーティングルームから出てずんずんとリンクへと向かっていく。
「コーチ陣が舌を巻いて唸る程のプログラムを作らないと、私がジュリアンに怒られるわ……。あの子、怒ると怖いのよね――」
そう言って肩を竦めて冗談ぽく呟いたジャンナの背中に、ヴィヴィは笑いながら「確かに!」と同意した。
そして――共犯者となってくれたジャンナに、再度心の中で「ありがとう」と感謝を述べた。