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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章
「ここですよ。薔薇のガクの部分です」
「あ、ここね~、……痛っ」
自分の指を針で刺したヴィヴィが、白い肌にぷくりと浮き出た血を、情けない顔で見つめる。
「ああ、また針指ちゃいましたか。絆創膏、張りましょうね?」
朝比奈が慣れた様子で、ヴィヴィの細い指に絆創膏を貼る。
「うう、かたじけない……」
そう謝るヴィヴィは、もうかれこれ20分、学園祭の衣装の飾りに苦戦していた。
首に巻く黒いリボンに、赤い薔薇飾りを縫い付ける――ただそれだけのことなのに。
「もう、テープでぐるんぐるんに巻いて、付けちゃおうかな?」
「自分で縫うの」と言い出したのは自分のくせに、そう弱音を吐いたヴィヴィを、朝比奈が宥める。
「それではきっと、ダンスの最中に取れてしまいますし、見栄えが大変悪うございますよ?」
「……だよね……。うん、頑張るっ!!」
「それでこそ、私のお嬢様です」
そんな激甘♡主従コントを繰り広げていた2人を、ノック音が遮った。
朝比奈が立ち上がり、扉を開けに行く――匠海の私室へと通じる扉を。
「匠海様、おかえりなさいませ」
その予想通りの朝比奈の挨拶に、匠海が答えている声が聞こえる。
「ああ、ただいま。朝比奈、ヴィヴィと話したいんだけど」
「ええ。存じ上げております」
ヴィヴィはそちらに視線を寄越していなかったが、朝比奈が下がって匠海に道を譲ったのは分かった。
近付いてくる靴音に、ヴィヴィは何故かそわそわし始める。
そして、手にしていた飾りと針を握り締めてしまい、また針を指に刺してしまった。
「……――っ」
辛うじて声を発さなかったヴィヴィは、絆創膏が何枚も巻かれた指に、その絆創膏の上からまた針を刺していたことに気付く。
(何やってるんだ、ヴィヴィは……)
そんな妹に気付かず、匠海は傍まで寄ると声を掛けてきた。
「ヴィヴィ、どこで話す?」
「………………」
ヴィヴィは無言のまま、ゆっくりと顔を上げる。
昨日と同じく2m先に佇む匠海は、またスーツ姿だった。
「俺の書斎、でいいか?」
その匠海の問いに、ヴィヴィの眉間が微かに寄る。