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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章
兄の書斎は10畳程あるが、書棚がせり出しているので、それよりも狭く感じた。
そこで2人きりになるのかと思うと、ヴィヴィの中には恐怖の念が沸き起こった。
「………………」
不安そうに朝比奈に視線をやったヴィヴィに気付いた匠海が、次いで口を開く。
「書斎の扉は開けておくし、朝比奈にリビングに控えていて貰うのはどうだ?」
逡巡するように左右に視線を振った後、こくりと小さく頷いて意思表示したヴィヴィに、ほっとした表情を浮かべた匠海は、「おいで」と妹を促し、そのソファーから立たせた。
兄の書斎に移動し、ヴィヴィはデスクの隣に置かれた椅子に座るよう促された。
1mしか離れていない兄の椅子との距離に、ヴィヴィは戸惑う。
(……ち、近い……)
そんなヴィヴィの心中に気づいているのかいないのか、自分の革張りの椅子に腰を下ろした匠海が、長方形の箱をヴィヴィの前に置いた。
「これ、ヴィクトリアにプレゼント」
どうやら今日は、聞かれてまずい話をするつもりはないらしい、兄はいつも通り英語のまま、そうヴィヴィに話し掛けてくる。
「………………?」
不安と不思議をない交ぜにした表情で、隣の匠海を恐るおそる見つめたヴィヴィに、兄は促す。
「開けてごらん?」
にっこりと微笑まれ、ヴィヴィはすぐに兄の顔から視線を落とした。
まだ見たくない。
まだ兄の顔を真正面から見て、受け止める準備は自分には出来ていない。
ヴィヴィは手元の箱を言われた通り包装紙を解き、中身を取り出した。
(……砂時計……?)
20cm程の高さのあるガラス製のそれを、ヴィヴィはしげしげ見つめる。
砂時計は通常、木の枠組に砂を入れたガラスを嵌め込んだものだが、ヴィヴィが手にしているのはガラスの部分だけのものだった。
ひっくり返してみると、さらさらと細かな黒い砂が、細い通路を伝って下へと落ちていく。
「これ、10分間測れるんだよ」
その匠海の説明に、ヴィヴィは「ああ、だから」と心の中で合点する。
昨夜、兄は自分と毎日10分ずつ話がしたいと言っていた。
その時間をこれで測ろうというのだろう。
「…………綺麗……」
思わず口から零れ出たその言葉には、自分が一番びっくりした。