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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章
「気に入った?」
妹の声が聞けてほっとしたように、匠海の声が柔らかになったのがヴィヴィにも伝わった。
そして、この砂時計は本当に気に入ったヴィヴィは、小さく頷いておいた。
「良かった」と微かに囁いた匠海に、ヴィヴィは手持無沙汰になる。
兄妹は2m程の横に大きなデスクに向かって、並んで座っている。
匠海は妹の方に身体を向けているが、ヴィヴィはずっとデスクに向かって兄の顔を視界に入れないようにしていた。
少しの沈黙の後、匠海が口を開いた。
「今日は、何してた?」
その質問に、ヴィヴィは困った。
話をする為の10分間なのに、出来れば自分は何も話したはくない。
けれど兄の質問は、返事を求めるものなのだ。
「うん」「ううん」と首を振って意思表示出来るものではない。
「…………いつも、通り……」
長い沈黙の後にやっとそう言葉を発したヴィヴィだったが、その返事の内容は会話を広げる気のない、酷いものだった。
「そうか。俺はね、会社に行く前にジムへ行って、出社して。ああ、お昼はダッドと中華を食べに行ったな」
その匠海の説明に、色気より食い気のヴィヴィは、咄嗟に反応してしまった。
「…………何、食べたの?」
そう口にして数秒後、軽い自己嫌悪に陥ったヴィヴィだったが、そんな妹にお構いなしに匠海は答えてくる。
「ダッドは点心ばっかり何個も。俺は麻婆豆腐定食……花山椒が効いていて、美味しかったよ」
途端にヴィヴィの頭の中に、小さなせいろに入ったほかほか点心と、花山椒が散りばめられた熱々麻婆豆腐が浮かび上がる。
(そういえば、最近中華、食べてない……)
「……点心……美味し、そう……」
ぷりんぷりんの海老餃子を妄想して口の中に唾液が溜まりそうになり、ヴィヴィは無意識にそう溢していた。
けれど、
「今度、行こうか? 少し貰ったけれど、フカヒレ餃子が美味しかった」
その匠海の誘いに、ヴィヴィは押し黙ってしまった。
そして30秒程経ってから零した返事は、
「…………嫌」
兄と2人で食事に行くなんてとんでもない。
同じ車に乗って、顔を突き合わせて、同じものをシェアして食べて、感想を言い合う――うん、絶対に無理だ。