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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章        

 ヴィヴィはカップに口付ながら、目の前に置かれたガラスのポットをじっと見つめる。

 ぽっこり盛り上がった黄色いおしべとめしべ、そして細く白い花弁。

 ジャーマン・カモミールのその愛らしい姿には、ちょっと不釣合いと思われるその花言葉。

『逆境に負けない強さ』

 ヴィヴィは気になって、その由来をスマホで調べてみた。

「……へえ……」

 そう呟いたヴィヴィに、朝比奈が不思議そうな瞳を向けてくる。

「あ……、えっと、カモミールって昔、芝生として使用されてて、踏まれても良く育つ、その生命力の強さからあの花言葉が付いたんだって」

 スマホに書かれていることを読み上げたヴィヴィに、朝比奈が頷く。

「ええ、そうなのですよ。実は私の従兄がガーデニングを生業としていまして、私も彼に教えて貰いました」

「へえ、ガーデニング……。グランマ、元気かな……」

 ヴィヴィはそう呟き、同じ趣味を持つ英国の祖母を思い出す。

 太陽の匂いがする、いつも穏やかで優しい日本人の祖母。

「菊子様ですね? また、日本に帰国される機会があるといいですね」

 朝比奈は、実は英国の両親の生家には行った事が無い。

 両家とも執事やメイドがいて、彼らが身の回りの事をしてくれるから。

 ただ祖母が日本に帰国した際には、会った事があった。

「そう、だね……」

 ヴィヴィはグランマの顔と、そして彼女から贈られた言葉達を思い起こし――それから目を背ける様に、ゆっくりと目蓋を閉じた。







 10月7日(水)。

 前日に引き続き、匠海の書斎にヴィヴィは居た。

 もちろん書斎の扉は開けたままで、その先には朝比奈が控えていた。
 
 お行儀が悪いとは分かっていながら、ヴィヴィは兄のデスクに頬杖を付いて、目の前に置かれた砂時計を、ぼ~と見つめていた。

「……これ……」

「うん?」

 ヴィヴィのその呟きに、匠海の暖かな相槌が返ってくる。

「……見てると、眠くなる……、ふわわ……」

 さらさらと細い線を描いて落ちていく黒い砂。

 あまりにも静かなその光景に、心身ともにへとへとのヴィヴィは眠気を覚えた。

 両手で口元を覆ってあくびをするヴィヴィに、兄は苦笑する。

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