この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章
そう無意味だ。
もうヴィヴィは兄に興味が無いし、もう恋心も無い。
クリスから与えられる双子の兄としての愛情に報いたいと思い、匠海と向き合う決心をしたが、やはりこんなのは無意味だ。
もう匠海を無視しないし、顔を合わせば挨拶だって、軽い日常会話だってしようじゃないか。
その努力はする――もうこれ以上、家族や周りに迷惑を掛けないように。
普通の兄妹を演じる覚悟をしようじゃないか。
だからもう、こんな無意味な事は――、
「どうして?」
ヴィヴィの思考を断ち切るように、また匠海が同じ問いを口にする。
「……っ 質問ばっかり、しないで……っ」
なんでそんなに質問攻めにされなければならない?
自分にばかり、理由を求められなければならない?
聞かなくても解るだろうに。
全ては兄からもたらされた一連の言動で、自分はこんなにも頑なになってしまったのだから。
「ごめん。でも、俺は、ヴィクトリアの事を愛しているから、もっと知りたい」
そうドイツ語で囁いた匠海の声は、心の籠った真摯な声の響きとしてヴィヴィには届いた。
それが余計にむかついた。
ヴィヴィは大きな砂時計を両手の中に包み込み、それをまるで兄の身代わりのように睨み付ける。
なんで今なのだ。
どうして今なのだ。
そう思うのが、どうして、全てが終わってしまった、壊れてしまった今なのだ。
本当にそう思っているのなら――ヴィヴィの事を知りたいと思うなら、どうしてこんな事になる前に、もっと聞いてくれなかったのだ。
自分はずっと待っていたのに。
苦しくても悲しくても自分を殺して、匠海が自分に振り向いてくれるのを。
躰だけでなく、心も愛してくれる事をずっと待っていたのに――!
「…………この、女たらし」
悔しそうにドイツ語でそう唸ったヴィヴィに、匠海はふっと苦笑した。
「ひどいな」
大して傷付いたそぶりも見せない兄に、ヴィヴィはもうなんだかやるせなくなった。
「……10分、経った……」
掌の中の砂時計の上部には、もう黒いそれは残っていなかった。