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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章        

 そう無意味だ。

 もうヴィヴィは兄に興味が無いし、もう恋心も無い。

 クリスから与えられる双子の兄としての愛情に報いたいと思い、匠海と向き合う決心をしたが、やはりこんなのは無意味だ。

 もう匠海を無視しないし、顔を合わせば挨拶だって、軽い日常会話だってしようじゃないか。 

 その努力はする――もうこれ以上、家族や周りに迷惑を掛けないように。

 普通の兄妹を演じる覚悟をしようじゃないか。

 だからもう、こんな無意味な事は――、

「どうして?」

 ヴィヴィの思考を断ち切るように、また匠海が同じ問いを口にする。

「……っ 質問ばっかり、しないで……っ」

 なんでそんなに質問攻めにされなければならない?

 自分にばかり、理由を求められなければならない?

 聞かなくても解るだろうに。

 全ては兄からもたらされた一連の言動で、自分はこんなにも頑なになってしまったのだから。

「ごめん。でも、俺は、ヴィクトリアの事を愛しているから、もっと知りたい」

 そうドイツ語で囁いた匠海の声は、心の籠った真摯な声の響きとしてヴィヴィには届いた。

 それが余計にむかついた。

 ヴィヴィは大きな砂時計を両手の中に包み込み、それをまるで兄の身代わりのように睨み付ける。

 なんで今なのだ。

 どうして今なのだ。

 そう思うのが、どうして、全てが終わってしまった、壊れてしまった今なのだ。

 本当にそう思っているのなら――ヴィヴィの事を知りたいと思うなら、どうしてこんな事になる前に、もっと聞いてくれなかったのだ。

 自分はずっと待っていたのに。

 苦しくても悲しくても自分を殺して、匠海が自分に振り向いてくれるのを。

 躰だけでなく、心も愛してくれる事をずっと待っていたのに――!

「…………この、女たらし」

 悔しそうにドイツ語でそう唸ったヴィヴィに、匠海はふっと苦笑した。

「ひどいな」

 大して傷付いたそぶりも見せない兄に、ヴィヴィはもうなんだかやるせなくなった。

「……10分、経った……」

 掌の中の砂時計の上部には、もう黒いそれは残っていなかった。

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