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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章
ヴィヴィは椅子を引いて立ち上がると、そのまま無言で書斎を出て行く。
「おやすみ、ヴィクトリア。よい夢を」
「……おやすみなさい。お兄ちゃんは、ヴィヴィの夢でも見てれば?」
ヴィヴィの渾身のその捨て台詞に、
「そうする」
そう素直に頷いた兄に、ヴィヴィは一瞬詰まり、そのまま書斎を出て行った。
ぐちゃぐちゃの心のまま、朝比奈にまたお裁縫を習ったヴィヴィは、また絆創膏だらけになりながらも、ようやく赤い薔薇のチョーカーを完成させた。
表から見るととても素敵だが、裏返すとその縫い目は面白いほどぐちゃぐちゃだった。
「お疲れ様でした。土曜日、楽しみにしておりますね?」
今週の土曜日にある学園祭。
母はコーチ業、父は仕事で来られそうにない。
ま、高校生の双子にとっては、両親が観覧に来られなくても、もう別に構わないが。
「朝比奈、来てくれるんだ?」
「ええ。もう旦那様と奥様から『ばっちり動画撮ってきて~っ(>_<)』と懇願されました」
そう苦笑しながらハーブティーの用意をしてくれる朝比奈に、ヴィヴィはやっと寛いだ表情で笑ったのだった。
10月8日(木)
相変わらず匠海の書斎で対峙する兄妹は、相も変わらず兄は妹を見つめ、妹は砂時計を見つめていた。
ラフなシャツとパンツを纏っている匠海は、今日は帰りが早かったらしい。
もうお風呂も入ったらしくて、1m離れているのに漂ってくるそのいい香りに、ヴィヴィは眉を潜めた。
そして、頭の中では念力を送っていた――目の前の砂時計に。
(早くおちろ~~、早くおちろ~~)
「昨日みたよ」
革張りの椅子にリラックスした様子で、長過ぎる脚を組んでいる兄のその言葉に、ヴィヴィは無言を貫いていた。
が、匠海にその先を続ける意思が無い様子に痺れを切らし、不承不承薄い唇を開いた。
「…………何を?」
「ヴィクトリアの夢」
そうドイツ語で即答した匠海に、ヴィヴィの薄い唇がむににと引き結ばれ、
「………………キモ」
ずいぶん時間を置いてそう一蹴したヴィヴィに、匠海が大げさに驚いてみせた。
「うわ。ヴィクトリアが、女子高生みたいな言葉使いを!」