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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第21章
サンクトペテルブルクを飛び立ってからの七時間――ヴィヴィは文字通り爆睡していた。
いつも睡眠時間の短いヴィヴィにしては寝すぎてしまい、頭がかなりぼうとする。
フラットになるビジネスクラスのシートからのっそりと上半身を起こすと、隣のクリスを見やる。
クリスもすやすやと寝息を立てて眠っていた。
ヴィヴィはクリスの腹部でくしゃくしゃになっていたブランケットを彼の胸まで掛けてなおしてやると、暗がりに浮かぶそのあどけない寝顔を見て小さく微笑み、またシートへと横になった。
照明の落とされた機内の天井を見つめていると、ふとヴィヴィの脳裏に数日前の記憶が蘇える。
匠海に誰にも披露したことのないFSを見てもらったあの日――「もう、遅いから帰ろう」と促されたヴィヴィは、急いでストレッチをして帰り支度をした。
リンクやストレッチルームの電気を消して駐車場へと続く裏口へと向かったヴィヴィは、自動ドアのところではたと立ち尽くす。
「あれ……朝比奈……?」
ここ一週間、ヴィヴィが終わる時間に朝比奈が車で迎えに来てくれていたが、今日はその姿が見えない。
袖をまくって腕時計を見ると、いつもの時間から二十分経っていた。
(車、混んでるのかな――?)
ヴィヴィは「タクシーを呼んで一人で帰る」と朝比奈に電話しようと思い、鞄の中の携帯電話に手を伸ばす。
その時、目の前に一台の黒いBMWが滑り込んだ。
助手席側のウィンドウが開き、運転席から身を乗り出して顔を出したのは匠海だった。
「ヴィヴィ。乗って?」
「お兄ちゃんっ――!?」
驚いて立ち尽くしてしまったヴィヴィの様子に苦笑した匠海は、サイドブレーキを引くと運転席から降りて助手席のほうへと回ってきた。
「何をそんなに驚いてるの?」
「えっ!? だって、お兄ちゃん、免許取ったなんて一言も――!」
灰色の目を真ん丸にしてそう発したヴィヴィに、匠海はしらじらしく「そうだった?」と返す。
そしてヴィヴィの手から鞄とスケート靴が入った袋を取り上げるとトランクを開いて放り込み、妹のために助手席のドアを開いた。
「ほら、乗って?」
「え……、う、うん」