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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章        

「…………やっぱり、躰が目的、なんだ……?」

 自分はきっと兄にとって、とても“楽な”抱き人形なのだと思う。

 帰宅すれば隣の部屋で眠っているから、いつでも出来るし。

 ピルを飲んでいるから、中に思う存分吐精出来るし。

 最初は嫌がっていても、快楽に弱いからか、なんだかんだ言って受け入れるし。

 ――まあ全て、過去の自分であって、今の自分ではないが。

 これがもし自分でなかったら……、

 わざわざ女性の自宅かホテルに、行かなければならないし。

 たぶんほとんどの女性が「常用的にピルを飲んで」と男に言われたら、良い顔はしないであろうし。

 ……薬局で購入できる欧州ならまだしも、特に日本では。

 そして普通、セックスを嫌がっている女性は、まず自宅に上げないだろうし、ホテルにも来ないだろうし。 

 そんなヴィヴィの思考など、全てお見通しとでも言いたげに、匠海は優しい声で続けた。

「そう思われてもしょうがないけれど、ヴィクトリアを愛しているから、そんな夢、見るんだよ?」

「…………信じ、られない」

 ヴィヴィは苦しそうに目蓋を瞑る。

 思考が昨夜に立ち還る。

 なんで、どうして、今なのだ。

「これから頑張るしかないな」

 ふっと微笑みながらそう呟いた匠海に、ヴィヴィの金色の頭がふるふる振られる。

 そしてゆっくりと目蓋を上げたヴィヴィは、手にしていた砂時計を見つめた。

「…………お兄ちゃんには、無理、だよ」

 そう、兄には無理だ。

「どうして、そう思う?」

 兄の静かなその問いに、ヴィヴィはくるりと首だけを匠海に向けると、真っ直ぐにその灰色の瞳を見据えた。

「ヴィヴィの事、愛してないから」

「………………」

 久しぶりに妹が自分を真っ直ぐに見つめたからか、はたまたその言葉に詰まったからか、匠海は驚いた様な表情を浮かべていた。

 ヴィヴィは顔を真正面に戻すと、砂時計をデスクの上に置いて立ち上がる。

「……もう、10分経った」

 硬いヴィヴィの声音に返されたのは、ただただ優しい兄の声だった。

「ああ。おやすみ、ヴィクトリア」




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