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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第21章
ヴィヴィは促されるまま助手席に体を滑り込ませる。
車の種類など分からないヴィヴィだが、これは世に言うスポーツカーなのだろうと思う。
黒い流線型の洗練されたボディーに、いつも乗っているベンツとは比べ物にならないくらい低い車高。
車内はシックな革張りだった。
(……いつの間に……?)
匠海が当然のように運転席に収まると、ヴィヴィはぽかんと匠海を見つめる。
「これ、お兄ちゃんの車――?」
「そう。ダッドに出世払いの借金をして買ったんだ」
頷いた匠海は、愛おしそうに革張りのハンドルを指先で撫でる。
そして何かに気づいたようにヴィヴィのほうを振り向くと、いきなり接近してきた。
体を倒して助手席のシートに右手を添えた匠海は、ヴィヴィの目の前まで上半身を伸ばす。
(な、何――!?)
心臓がどくりといきなり大きく波打つ。
暗くて静かな密室の空間に五月蠅いヴィヴィの鼓動が響いてしまうのではないか、とありえない心配を咄嗟にしてしまう。
目の前には見慣れない匠海のネクタイ姿と、薄暗い車内でも分かる男らしく突き出た喉仏。
触れ合っていないのに、匠海の体からはヴィヴィを焦がすほどの熱が発せられているかのように、熱く感じてしまう。
思わず目を瞑ってしまったヴィヴィだったが、数秒後、しゅっと何かを引っ張る音がした。
恐る恐る瞼を開いたヴィヴィの目の前には匠海の姿はなく、胸と腰に感じる違和感。
「え……?」
思わず小さな声を上げてしまったヴィヴィに、運転席へと戻っていた匠海が「シートベルト」と呟く。
「あ……」
自分の体に視線を落とすと、シートベルトが巻かれていた。
抱きしめられると勘違いしてしまった自分に、ヴィヴィの白い頬がかっと朱に染まる。
けれど車内が暗いので匠海には気づかれなかったようだ。
「まったく! いつまで経っても、手のかかるべーべちゃんだな~」
そう言いながらも優しい瞳で見下ろし金色の頭を撫でなでしてくる匠海に、ヴィヴィはドキドキしながらも言い返す。
「べっ!? ヴィヴィ、べーべちゃん(赤ちゃん)じゃないっ!!」
母のジュリアンやクラスメイトにはよく「お子ちゃま」とからかわれるが、匠海はそれを通り越してBABYだ。
ヴィヴィは唇を尖らせると、ふんと窓の外に顔をそらした。