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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第97章
「…………認めるんだ?」
「ああ。何としてでも、ヴィクトリアの気を引きたいからね」
そう聞いているこちらがうっとりしそうな少し低い声音で囁く匠海に、ヴィヴィは頭の中で舌打ちした。
「…………言ったら、意味ないんじゃない?」
「餌付けするよ」と言って食事を出され、引っかかるような馬鹿は、そうそういないと思うが。
「あ……。まあいいや。美味しそうな顔、見れたし」
匠海にしては初歩的なミスをしたらしい。
そしてその後に続けられた甘ったるい誘惑するような言葉に、ヴィヴィは鼻白んだ。
「…………やっぱり、女たらしだ」
(ふんだ……。いくらヴィヴィが馬鹿だからって、豆腐なんかで、騙されないんだから……っ)
綺麗に残さず食べたくせに、そう心の中で断言するヴィヴィだった。
「あはは……。あ、ヴィクトリア、ここ付いてる」
ヴィヴィの言葉に笑っていた兄だったが、急にヴィヴィの視界に割り込むように身を乗り出し、自分自身の形の良い唇の端を指差した。
「えっ!? こ、ここ……?」
兄の目の前で豆腐を口の周りに付けていたなんて恥ずかし過ぎて、ヴィヴィは咄嗟に匠海のほうに向き直り、焦った様に確認する。
「違う、反対」
匠海が右側を指しているので、自分の左側を指で拭う。
「ん……? こっち?」
「違うよ、ここ……」
なかなか取れなくて焦るヴィヴィに、いつものように匠海が指先で豆腐の欠片を拭う。
暖かな指先を自分の口元に感じた瞬間、
「触らないでっ!!」
ヴィヴィは咄嗟にそう叫んでいた。
そしてその小さな顔は瞬時に真っ赤に火照り、目の前の兄を鋭い視線で睨み上げていた。
「……ごめん、……そんなつもりじゃ」
驚いた表情の匠海がそう言い訳をしていると、外に控えていた朝比奈が主の緊迫した声を聞きとめ、心配になったのだろう。
書斎の扉の向こう――ヴィヴィの視線の先に、朝比奈の姿が入った。
ヴィヴィは砂時計がまだ1/3、上部に黒い砂を残しているのを認めたにも関わらず、椅子を引いて立ち上がった。