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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
「本当……?」
「うんっ もう、ヴィヴィ感動して、踊ってる最中だったのに、泣きそうになっちゃったもんっ!!」
細い顎の前で両手を組んで夢見る少女のようにうっとりしたヴィヴィに、クリスがずいと身体を寄せて来る。
「じゃ、ご褒美のキス……」
そう甘えてくる双子の兄に、ヴィヴィは瞳を細めて笑う。
「あはは、いっくらでもしてあげる! ん~っ ちゅっ ちゅっ」
両掌でクリスの頬に手を添えたヴィヴィは、左右に1回ずつ賞賛のキスを贈った。
「お返し……。1ヶ月、お疲れ様……」
そう囁きながら妹のおでこに柔らかなキスを落とすクリスに、ヴィヴィは上目使いに見上げながら微笑んだ。
「クリスこそ、総監督、お疲れ様でした!」
そんなヴィヴィの背中をポンポンと撫でたクリスだったが、身体を離した時にはもうその顔付きは変わっていた。
「じゃあ、きちんと、頭を切り替えようね……。なんたって、明日は……」
切り替えの早いクリスのその言葉に、ヴィヴィは敬礼しながら答える。
「はいっ 模擬試験でありますっ」
「そう。集中集中……」
「っしゃ~っ!!」
ヴィヴィは乙女らしくない掛け声を高い声で上げながら、己の両頬をぴしゃりと叩いて気合を入れ、明日の模試に向けての最終調整に入るのだった。
ディナーを摂りリンクへと向かった双子は、4時間のレッスンを熟して帰途に就いた。
NHK杯まで1週間を切り、2人とも予定通りの仕上がり具合だった。
篠宮邸に着き、車寄せに止められたベンツから降りた双子は、いつものように連れ立って3階の私室へ戻ろうとした。
が、ちょうどもう1台の車のヘッドライトが、屋敷の外周をぐるりと囲む門扉から入って来たのに気づき、玄関ホールで足を止めた。
「ダッドかな?」
ヴィヴィがそう言って首を捻る。
篠宮家の5人は、生活パターンがバラバラだ。
6時前に家を出て23時に帰宅する双子と、ほぼそれに準ずる母ジュリアン。
7時くらいに家を出て、日によってバラつきがあるが、24時前に帰宅する匠海。
8時くらいに家を出て、帰りは匠海と似たり寄ったりの父グレコリー。
下手をしたら1週間、全然顔を合わさない家族もいたりする。