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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章           

 グレーのグラデーションが印象的な衣装の胸元には、薄黄色と薄紅色のスワロフスキーの刺繍。

 そしてシンプルに結上げた金髪には、花弁の先端のみ薄紅色の、薄黄色の薔薇飾りをしていた。
 
 誰にも聞かれなかったから、誰にも答えなかった。

 あれはただの髪飾りじゃないと。

 ちゃんと意味があって選んで創ったのだと。

 ――まあ、父方の祖母程ガーデニングに詳しい人間ならば、一目瞭然だっただろうが。

「一緒に見たい」

 兄の言葉に、跪いたままのヴィヴィの身体がぴくんと動く。

「……え……?」

「ヴィクトリアと一緒に、この薔薇を見たいな」

 そう言い直した匠海に、ヴィヴィは両手を付いていた花壇の淵から手を放し、パンパンと軽い音を立てて手に付いた土を払う。

「…………咲いたら、ね」

「絶対に咲くよ」

 興味無さそうな妹に対し、自信満々にそう返してくる兄。

「…………ふうん」

 そう呟いたヴィヴィの、ポニーテールに結い上げた細い首筋を、冷たい風がひゅうと音を立てて撫でた。

 咄嗟に首を竦めたヴィヴィに気付いたのか、匠海が声を掛けてくる。

「もう夜も寒くなってきたな……。付き合ってくれてありがとう、ヴィクトリア。冷えるからもう、部屋に戻りなさい」

 妹にそう促す匠海はと言えば、その場に佇んだままで、一緒に屋敷に戻る気配はなかった。

「…………戻らないの……?」

 立ち上がったヴィヴィが、膝の汚れを払いながらそう尋ねる。

「ああ、ちょっとな」

「……女のとこ、行くんだ……」

 そう何でも無い事のように呟いたヴィヴィは、小さな頭の中で匠海が帰国してからの事を思い出していた。

(そういえば前……。「ヴィクトリア以外、興味無い」って言う、お兄ちゃんの言葉が信じられなくて、怒られたな……)

 今日は土曜日。

 兄が他の女のところに行こうと、もう自分には関係ない。

 ただ、本当にそうなのだとしたら、この無意味な毎日の逢瀬から、すぐさま自分を解放して欲しい。

「ふ……。会社だよ。四半期決算で忙しいんだ」

 目の前の兄から小さな笑みが降ってくる。

 紺のスーツの内ポケットから、カードホルダーに入れた社員証をちらりと覗かせた匠海に、ヴィヴィはさっと視線を寄越し、また外した。

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