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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第21章
「はいはい。じゃあ帰るよ」
匠海は苦笑してそう言うと、サイドブレーキを下げて静かに車を発進させた。
駐車場を出てスムーズに車の列に入ると、流れるような運転で家路を辿る。
「いつの間に、車なんて買ったの……?」
一分後、腹を立てていたことなど忘れてヴィヴィが匠海に尋ねる。
「一ヶ月前。しかも免許を取ったのは二ヶ月前――でも安心しろ。俺は安全運転だから」
一瞬「大丈夫かな?」と心配したヴィヴィだったが、その心配も匠海の運転を見ているうちに無くなった。
「クリス、羨ましがるよ~。メカ好きだから」
「ああ、クリスは前から知ってる。車を選んでいた時にも、ディーラーに付いてきてたし」
まさか自分だけ知らされていなかったとは思いもしないヴィヴィが、ぱっと運転中の匠海を振り返る。
「えっ!? ずるい~っ!」
自分も兄と一緒に車を見に行きたかったと拗ねるヴィヴィに、匠海が笑う。
「いや、ヴィヴィはFSの準備で忙しそうだったし。それに、ヴィヴィを連れて行ったらちょっと五月蠅そうだったし……」
「う、五月蠅くないもんっ!!」
「いいや、絶対五月蠅いはず……ピンクの車買えだの、この車は可愛くないだの」
「………………っ」
確かに真実を突いている匠海の指摘に、ヴィヴィはぐっと詰まると何も言えずに頬を膨らませた。
信号が赤に変わり、車が静かに停止する。
「悪かったって。だから『初めて』をヴィヴィにあげたでしょ――?」
笑いを含んだ匠海の声に、ヴィヴィは内心首を傾げる。
(『初めて』……?)
「この車に乗せたの、ヴィヴィが『初めて』」
「え…………?」
「購入したのは一ヶ月前だけど、納車は一週間前だったんだ。だから今日ヴィヴィを乗せるまで、まだ誰も乗せたことはないよ」
信号が青に変わり、匠海が車を発進させる。
「本当……?」
「ああ」
「じょ、助手席に他の人、乗せたこと無いの――?」
(麻美さん、も……?)
以前ヴィヴィの前で匠海と抱き合っていた女性はそれ以来見ていない。
どうやら匠海の彼女ではないらしいが、ヴィヴィはどうしてもこだわってしまう。
「助手席っていうか、2シーターだから助手席しかないけど……ヴィヴィが初めてだよ」