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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章           

「NHK杯、女子シングル、最終グループ。グランプリシリーズのSP滑走は、ISUワールドランキングが下位の選手から滑ります。ですので、氷上にはランキング1位で、最終滑走の篠宮選手が入っております。前の滑走者、ロシアのエリーナ・ラジオノワ選手の得点を待ちながら、気持ちを整えます。今朝の公式練習でも、トリプルアクセルは5本中4本、クリーンに下りていました」

 刈谷アナウンサーの言葉に、解説の八木沼が続く。

『はい。6分間練習でも、落ち着いて調整出来ていました。きっと飛んでくると思います』

 名古屋市総合体育館のリンクに、ラジオノワの得点がアナウンスされる。

「場内にはエリーナ・ラジオノワ選手の得点が、コールされました。68.16――。篠宮選手を残して現在第1位です」

『思ったより、いい点数が出ましたね』

 八木沼が意外そうに呟く。

「その高い得点を聞いてからの、篠宮選手の演技。母でもあるジュリアンコーチの最後の言葉に、笑顔で大きく頷き、お兄さんのクリス選手とも熱い握手を交わしました」

「9番、篠宮ヴィクトリアさん、日本。 No.9 The representative of Japan,Victoria Shinomiya 」

 日本語と英語で読み上げられる、そのアナウンスに、ヴィヴィが両手を挙げてリンクへと滑り出す。 

「篠宮選手が紹介されて、場内大きな歓声。日の丸が沢山振られています」

 刈谷の実況に、八木沼の声が被さる。

『グランプリシリーズ開幕戦。落ち着いて行って欲しいですね』

「理想として掲げます、今出来る最高のプログラムを、この週末に向けてとにかく準備してきました。まずはショート。誰もが期待する中で、誰もが信じる、彼女だけが手にする武器――。それを今、しっかりと確認しました。曲はドビュッシーのピアノ曲、喜びの島」

 繊細なピアノの調べに乗って、胸の前で両手を交差させたヴィヴィの頭が下から円を描くようにゆっくりと持ち上げられる。

「笑顔と、喜びの、3回転半の2分50秒です。さて……、そのアプローチ――、決まったっ これを待っていました!」

 氷上で見事3回転アクセルを決めたヴィヴィに、場内からは音楽が聞こえなくなるくらいの歓声が上がる。

『これは流れの中、綺麗に纏めましたね』

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