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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
「そして、今映し出されていますスロー映像の、トリプルアクセル! 初戦で緊張もあるだろうに、きっちり決めてきましたね?」
『そうですね。プログラム全体の難易度が高くなれば、その分本番も緊張しますし。ただ、このアクセルは本当に出来が、質が、良かったですねぇ~』
しみじみと呟く八木沼に、刈谷アナの笑う声が被さる。
「実は場内にも同じ場面が流れていまして、お客様もそのひとつひとつに……、もう決まっているシーンではあるのですが、改めて拍手を送っているという状況です」
『高さと、それから身体の軸の取り方、そしとキレといい、本当に申し分のないジャンプだったんじゃないかと。篠宮選手、よく集中して良いイメージのままにこのショート、アクセル以降も全部滑りきったと思いますね。そして何よりもこのステップが……』
「素敵でしたよね~」
刈谷アナが惚れぼれ、といった声を上げる。
『もう言葉にならないほどに、本当に曲を紡いでいるような、手指の先から爪先まで嬉しさが十分に伝わる……。エッジワークといいい、身体といい、動いた……、素敵なステップに仕上がった、という印象を受けましたね』
「スロー再生と共に、5分間程、ミニタイムトリップをしたかのような……。もう一度彼女の演技を、会場の客席と共に、そして篠宮選手と一緒に楽しみました。キスアンドクライです――」
「篠宮ヴィクトリア選手の得点――」
大歓声で聞き取れない得点を、刈谷アナが興奮して読み上げる。
「75.51――っ!」
『5コンポーネンツも、高いですね~』
「出ましたっ もちろん第1位です。ぶっちぎりです。素晴らしい!」
そんな興奮冷めやらぬ実況席から、女性リポーターが実況を受け継いだ。
もちろん画面に映るのは、キスアンドクライのソファーで、コーチとクリスときゃっきゃと喜び合うヴィヴィの姿。