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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
『滑り終えてから、ずっと笑顔の篠宮選手です。インタビューでは「挑戦」という言葉を使い、その挑戦に自ら挑んできました。今、天井を見上げて「ふ~」と、ようやくホっとした表情を見せました。滑り終えた後は少し涙ぐむ様子も見せまして、リンクサイドに戻って来た時はコーチに「やったー」と発していました。さあ、演技を終えて今何を思うのか――、お話を伺います。お疲れ様でした』
「ありがとうございます」
強化指定選手のジャージを羽織ったヴィヴィが、笑顔でお礼を口にする。
『トリプルアクセル、決まりましたね?』
「はい」
『どうでしたか?』
ヴィヴィは浮き出る額の汗をティッシュで拭いながら、思考を巡らせる。
「昨日こちらに来て、今朝から調子も上々で、試合に望むことが出来たので、もうやるしかないって言うか。思い切っていきました」
『このショートでのアクセル、ご自身の中では評価するとしたら何点でしょうか?』
リポーターから差し出されるマイクに、ヴィヴィは滑り終えた興奮でごちゃごちゃの脳から、何とか言葉を捻り出す。
「そうですね。やはり今シーズン、助走の改良に取り組んで、今日実戦で初めて飛んで……。結果は認定されているか、分かりませんが。自分の中ではしっかり回り切っていると思っているので、100点満点をあげて……。そしてこの自信を、また明日に繋げて行きたいと思います」
『滑り終えて、コーチには何を言われましたか?』
「あの、興奮していたのであまり覚えてないのですが……。えっと、よかった、と言ってくれました」
必死に思い出す様に、ヴィヴィの灰色の瞳がきょろきょろと動く。
『フィニッシュのポーズを決めた後、涙が零れていましたが。ほっとしましたか?』
「はい……。もう、本当に、お客さん前で滑るのが久しぶりで、とっても緊張していて……。は、恥ずかしいです、泣いちゃって……」
そう砕けた物言いで恥ずかしそうに苦笑したヴィヴィに、リポーターも笑う。