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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第21章
前を見ている匠海の表情がふと綻ぶ。
ヴィヴィはその横顔を食い入るように見つめると、きゅっと唇を引き結んだ。
歯を噛み締めて湧き上がってくる自分の気持ちを押し殺す。
そうでもしなければ、溢れ出そうだった。
(嬉しい……すっごく、嬉しい……)
胸の奥がじんと熱くなる。
他の人から見れば「何でそんなことで?」と思われるかもしれないが、ヴィヴィにはただの妹である自分を匠海が「初めはヴィヴィを乗せてあげよう」と思ってくれたことだけで、天にも昇るほど嬉しかったのだ。
「うふふ……」
知らず知らず、ヴィヴィの唇から微笑みが漏れる。
「機嫌治った……?」
すかさず突っ込んでくる匠海に、ヴィヴィはついとそっぽを向く。
「あま~いっ! ヴィヴィも一緒に車選びたかったもん! だからまだ膨れているのです!」
そう言って助手席の窓から外を睨んで腕組みをしてみせるヴィヴィに、匠海の苦笑が聞こえた。
(お兄ちゃん……大好き……)
視線の先――流れていく東京の夜景を見ながら、ヴィヴィは心の中で呟く。
星に願いをかけるなら
君がどんな人だって構わない
心から願う その気持ちは きっと叶うんだよ
去年の夏。自分の心を持て余していたヴィヴィは、その歌詞を否定しながら車中から夜景を見つめていた。
しかし、今は違う。
愛しい匠海の隣で、幸福な気持ちで夜景を見つめている。
(目を閉じると、ほら――こんな明るい東京の夜でも、無数に瞬く星が見られる……)
ヴィヴィはシートに深く背を預けると、瞼を瞑りながら幸せそうに微笑んだ。
ヴィヴィが次に意識を取り戻したのは、篠宮家の長い廊下の途中だった。
「よくお眠りですね」
どこからか朝比奈の押し殺したような声が聞こえる。
「ああ、睡眠時間三時間じゃ、爆睡もするさ――」
「…………っ! 知ってらっしゃったのですか?」
匠海の返事に、朝比奈が驚いた声を上げる。
「し――。両親は気づいてないよ。俺は隣の部屋だから、ヴィヴィの帰りが遅くなったことくらい気づくさ」
(お兄ちゃん……気づいてたんだ……)
ヴィヴィはぼうとする頭の片隅で、そう思う。
「申し訳ありません。私は止めないといけない立場ですのに――」
小さな声で謝る朝比奈を、匠海が遮る。