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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
そんな息詰まる状況の中、意外な存在がヴィヴィの心を解してくれていた。
そう――匠海との毎日10分の時間。
こういう状況になってからのヴィヴィは、兄の言葉を無視して返事を返さないこともざらだったし、返したとしても歯に衣着せぬ短い一言で、ずばっと匠海に返していた。
そうされていた匠海からしたらえらい迷惑だっただろうに、ヴィヴィが返事をするだけで、そちらをちらりと見るだけで心底嬉しそうに笑っている兄の存在には、正直沢山救われた。
それはクリスも同様だったようだ。
ヴィヴィは後でクリスから知らされたのだが、匠海はその3日間、クリスとも毎夜話す時間を持っていたらしい。
ある日は嫌がるクリスの隣に添い寝してみたり、ある日はクリスをからかってちょっかいをかけまくってみたり、ある日は疲れているだろうと無理やりマッサージしてみたり、と。
そうされている瞬間は、温厚なクリスでも正直「イラっ」っとするらしいのだが、匠海が「じゃあな」と愉快そうに笑いながら部屋を出て行くと、何故かその後、心がすっきりとしているのだそう。
「やっぱり、兄さんには、敵わない……」
そうぼそりと零したクリスに、ヴィヴィは一瞬同意しそうになり、
「……そんな事、ないもんっ」
と、唇を尖らせたのだった。
10月22日(木)。
翌日に中国杯を控えた双子はBSTを休み、午前中から松濤のリンクで滑り込んだ。
間4日という短い期間で、2人ともぎりぎり調整が間に合ったが、互いに疲れからかヴィヴィは3回転アクセルが、クリスは4回転ループの調子に波があった。
羽田空港16時発の飛行機に乗り、北京首都国際空港に到着したのは、4時間後の20時過ぎ。
試合会場である首都体育館近くのオフィシャルホテルにチェックインした双子とそのチーム一向は、ホテルで夕食を摂ると早めに休んだ。