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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章           

 最終グループの6分間練習では、3回転アクセルの調子が何故か抜群に良かった。

「適度な疲労で、身体の“りきみ”が抜けてるのかもね?」

 リンクサイドで他のコーチと並んで見守っているジュリアンのその言葉に、ヴィヴィもうんうん頷いて同意した。

 垂直跳びをして軸の確認をしたりしていると、6分間練習が終了となり、ヴィヴィは他の選手同様バックヤードへと引き上げた。

 通路の一角で、アクセルの軸を確認していたヴィヴィに、柿田トレーナーが声を掛けてくる。

「ヴィヴィ、クリスから伝言」

「ん? 何ですか?」

 iPodでFPの音源を聞いていたヴィヴィは、イヤホンを抜いて耳を傾ける。

「ええと、『デリラちゃん、モニターで見てるから。落ち着いて』だって」

 柿田がスマホの文面を読み上げた途端、ヴィヴィの明るい笑い声がその場に漏れる。

「あははっ デリラちゃんっ」

 18:15――女子の2時間後からスタートする男子FPの為、今日もクリスはヴィヴィのリンクサイドに立てないのだ。

「あ、続きがある……。『追伸 : 帰ったら勉強漬けの日々が待ってるよ』だって。ん~? これ、激励のメールだよな?」

 柿田が苦笑しながらヴィヴィを見つめれば、

「え~~っ! ああ、でも、クリスなりの緊張解し、なんでしょうね」

 励ましているのだか落ち込ませてるいのだか、よく分からないクリスの激励メールに、ヴィヴィは心の底から笑った。

 そしてクリスの読み通り、いい具合に緊張が解れたヴィヴィは、会場スタッフに呼ばれてリンクサイドへと移動した。

(ま、ここまで来たら、後はやれる事をやるだけ。まあ、ちょっと、スタミナ面が心配ではあるけれど……)

 冷静にそう分析しながら自分の滑走順を待ち、とうとうヴィヴィはリンクへと飛び出した。

 いつも通りに身体を温め、予定通りに確認作業を熟す。

 前に滑った中国のジ・ジュンリの得点を、リンクサイドに戻って聞きながら、ヴィヴィは鼻をかんだ。

「1本目のアクセル、まずかったら、2本目は2回転にする……ですね?」

 そうジュリアンに最終確認すると、大きく深く頷かれる。

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