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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章           

「そうよ。今日はプログラムを纏め上げる事を、第一目標にね」

「はい」

 引き締まった顔でそう頷いたヴィヴィに、ジュリアンはにかっと笑っていつもの言葉で送り出す。

「SMILE、ヴィヴィ」

「行ってきますっ」

 ヴィヴィは大きく1つ息を吐き出し微笑むと、ジュリアンに背を向け、リンクへと入って行く。

 コールされる自分の名前と国籍。

 そして中国人7:日本人3くらいの比率の観客に両手を挙げて応えると、十分時間を取り、心を落ち着ける。

(うん。デリラちゃん、頑張ります――っ)

 そう薄い胸の内で冗談ぽく誓ったヴィヴィは、両腕を優雅に持ち上げる。

 まっすぐに天へと伸ばした右手首は掌を下へと向けて折り曲げられ、左腕は右肘を掴み頭の上で四角を作っている。

 左へと視線を向け、左膝を折り曲げたポーズ。

 弦楽器の重低音が厳粛な雰囲気を醸し出す中、ゆっくりとポーズを解きながら左の手の甲で右の頬をつるりと撫でながら滑り出す。

 チェロの豊かな音色が、悪女・デリラのアリア「愛よ か弱い私に力を貸して」を歌い上げる中、ヴィヴィはトップスピードに乗る。

『サムソンは 私の居場所を求めて

 今夜 この場所に 必ず来るに違いないわ 』

 音楽に耳をそばだてながら飛び上がったヴィヴィは、3回転アクセルをクリーンに降りる。

『今こそ 復讐の時

 私たちの神々様に 満足して頂かなければ!』

 朗々と歌い上げられるチェロの音に乗り、再度3回転アクセルを踏みきったヴィヴィだったが、

「…………っ」

(あ、ぐらついたっ く……っ しょうがない、シークエンスでっ)

 空中で軸がぐらつき、何とか片足で降りたがすぐには飛び上れなかったヴィヴィは、咄嗟にステップを挟んでジャンプシークエンスへに変更し、3回転ループを飛んだ。

 瞬時に気持ちを切り替え、次のジャンプの助走に入る。

『愛よ! 私の弱さを 助けておくれ!

 彼の胸の中に 毒を注いでおくれ 』

 助走中、左胸の下で下向きに掌を合唱させてから両腕を振り下げ飛んだのは、3回転ルッツ。

 クリーンに下りられたそれは着氷後も流れがあり、ヴィヴィはその余裕の中でジャッジに向けて強い視線を送りながら、狡猾そうに微笑む。

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