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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
コレオグラフィックシークエンスは、怪力・サムソンのように力強く。
左腕は横へと伸ばし、右腕は背中の後ろに回して伸ばしながらイナバウアーをし、渾身の力を振り絞って飛び上がったバレエジャンプ、そして鞭のように瞬時にしならせる腕の動きをしながらの180度開脚したスパイラル。
ぐらぐらとグラつきはじめる軸足に、ヴィヴィは一瞬眉を顰める。
(ああ、まずい……、脚にきてる……っ)
バックエントランスでチェンジフットコンビネーションスピンを回りながら、ヴィヴィは冷静になるよう自分に言い聞かす。
挙げた手の手首を直角に曲げる凝ったスピンを重ね、残すは最後のビールマンのみ。
(頑張れ、ヴィヴィっ ……4,5,6回。うん、ギリOKっ ヘロヘロだけどっ)
何とかFPのスピンの規定の6回転を回りきったヴィヴィは、まるで神々に供物を供える様に両手を掲げ、片膝を付いてフィニッシュする。
音楽の余韻に被せて大きな拍手が湧き起こる中、ヴィヴィは力尽きてぐったりと氷に両手を着いた。
(き、きつ……っ)
振付師の宮田が作り上げてくれたこのFPの、その鬼プロ具合を再度認識しながら、ヴィヴィはゆっくりと身体を起こし立ち上がる。
自分の名前が中国語と英語で読み上げられる中、四方に礼を送ったヴィヴィは、脇腹に両手を添えながらリンクサイドへと戻る。
(あ~~……、アクセル、コンビネーションに出来なかったから、基礎点の0.8か……。え~と、約3点くらい減って、なおかつGOEも……。う~ん……)
そう悔みながらコーチの元へと戻ったヴィヴィだったが、迎え入れてくれたジュリアンは、笑顔だった。
「よしよし、お疲れさん」
その労いの言葉に両腕を伸ばしてコーチに抱き着けば、衣装に身を包んだ身体をぎゅうと抱き締められた。
「つ、疲れました……」
つい弱音を吐いてしまったヴィヴィにも、ジュリアンはぽんぽんとその背を叩いてくれた。
エッジケースを付けて、そのままフラフラとキスアンドクライへ行こうとしたヴィヴィは、スケ連のスタッフに代表ジャージを渡され、それを着込んでやっとソファーに腰を下ろす。