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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第21章
「ヴィヴィが頼んだんだろう? しょうがないよ。この子にお願い事をされると何故か聞き入れてやりたくなるのは、誰だって同じさ……」
そう言って苦笑した匠海は、ヴィヴィをギュッと抱き寄せた。
(…………え?)
膝の下と背中に回された腕の感触。
凭れ掛かった頬に感じるスーツを纏った逞しい胸と、微かに香る匠海の香水の香り――。
(へ…………?)
音だけを拾っていた朦朧とした思考が、徐々に覚醒してくる。
「可愛い寝顔だな――FSを踊っていた時の妖艶さは、微塵も感じられない……」
そう言って苦笑した匠海の腕の中で、ヴィヴィはばちっと音がしそうなほど大きく瞼を開いた。
「あ。起きた……」
ちょっと残念そうにそう呟いた匠海の顔を彼の胸の中から見上げたヴィヴィは、絶句した。
「なっ……!? えっ――!?」
寝起きの掠れた声で小さく叫んだヴィヴィは、咄嗟に自分の置かれている状況を感じ取る。
(わ、私、お兄ちゃんにお姫様抱っこされてる――っ!?)
ひいっ! とヴィヴィは心の中で悲鳴を上げる。
確かにヴィヴィは細い。
スケーターとしても華奢過ぎるくらいだ。
しかしそれでも確実にアスリートとしての筋肉は備えている。つまりー―、
「お、お兄ちゃんっ! 下して! 私、重いから――っ!!」
そう叫ぶとわたわたと匠海の腕の中で暴れる。
「落ちるから暴れるなって!」
匠海にそう叱責されたヴィヴィは、驚いてぴたと暴れるのを止めた。
「ほんとに手のかかるべーべだ……」
匠海は困ったようにそう呟くとヴィヴィの私室に入り、バスルームでやっと体を下した。
「ご、ごめんなさい……」
今まで匠海に声を荒げられたことなどなかったヴィヴィが、体を小さくしながら謝罪を口にする。
「怒鳴って悪かったって。明日は大事な日なんだろう? ちゃんとシャワー浴びて早く寝なさい。いいね――?」
「は、はい……」
ヴィヴィの頭をポンと叩き背を向けてバスルームを出て行こうとする匠海の背中に、咄嗟に声をかける。
「あ、ありがとう……お兄ちゃん……」
匠海は一瞬歩を緩めたが、小さく手を上げるとそのままバスルームを出て行ってしまった。