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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
「うわおっ」
一般の観客と変わらないテンションで双子の兄の演技を見つめる中、曲は「メインテーマ」から「I Never Woke Up in Handcuffs Before(手錠されながら起きたことはない)」へと変わる。
ヴィヴィも大好きな、痺れそうなほどクールな曲に乗せてクリスが舞う。
シャーロック・ホームズの特技であるフェンシングやヴァイオリンのマイムを入れた振付に、キレッキレのステップシークエンス。
大観衆の手拍子という味方を付け、最後に3回転を飛んだクリスは、若干の細かいミスはあったものの、素晴らしい演技をしてみせた。
「凄いっ ちょ~かっこいいっ!!」
興奮して両手を打ち鳴らしていたヴィヴィに、傍の席のお客さんから、
「ヴィヴィちゃん、これ!」
と日本語で声を掛けられた。
「ん?」
咄嗟に振り向いたヴィヴィの元へ、上の観客席から縫いぐるみが降ってきた。
なんだろうとそれを見つめたヴィヴィの小さな顔が、途端に悪い笑顔を浮かべる。
「確かに受け取りました! ありがとうっ」
その悪い顔のままお客さんに礼を言ったヴィヴィは、戻ってきたクリスをコーチと出迎えた。
「あ~……、疲れた……」
意外や意外、スタミナは余裕そうに滑っていたクリスだったが、戻って来た時は息切れしてかなりしんどそうだった。
ヴィヴィは低いなりにも肩を貸すと、キスアンドクライへとクリスを連れて行く。
どさっとソファーに座りこんだクリスに、代表ジャージを肩に掛け、水とタオルを渡し……とサポートする。
「どうでした……?」
「ん~……、もしかしたら、ルッツ、エッジエラーかも。まあ、厳しく見られてたら、ね」
ぼそぼそと囁きあう母と兄の話が済んだところを見計り、ヴィヴィはファンから貰った縫いぐるみを取り出した。
それは手錠を模した縫いぐるみ。
ヴィヴィはクリスの片手をそれに嵌め込むと、もう片方を自分の腕に嵌めて、その腕を高々と上げ叫んだ。
「捕獲っ!!」――と。
きっとファンの子はFPの音源に「手錠されながら起きたことはない」が使われていると知っていて、これをくれたのだろう――心憎いプレゼントに、会場からも笑いが起こる。