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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章           

「……じゃあ、眠くなりそうな本、持って来てくれる? 六法全書とか、哲学書とか、医学書とか……」

 ヴィヴィのそのリクエストに、五十嵐は笑うと「待っていて下さい」と言い残し、寝室から出て行った。

 と思ったら、速攻で引き返して来た。

 ベッドの枕元まで寄った執事を不思議そうに見上げたヴィヴィに、五十嵐が要件を伝える。

「お嬢様。匠海様がお帰りですが、お通しして宜しいですか?」

「え……っ!? お、兄ちゃん……?」

 ヴィヴィは咄嗟にベッドサイドに置かれた置時計を見つめる。

 今は20時――いつもの匠海なら、絶対に屋敷にいない時間だ。

(な、何で……? あ、もしかして……。またヴィヴィの為に、仕事、中断して……?)

 戸惑うばかりで明確な返事を寄越さないヴィヴィに、五十嵐が気遣わしげに続ける。

「もし、ご都合が悪いようでしたら――」

「えっ? あ、えっと……」

 その先に続くであろう五十嵐の言葉を遮りながらも、ヴィヴィは答えあぐねる。

(つ、都合は悪くないの、別に……。眠くも無いし……、しんどさも、殆ど無いし……)

「お嬢様?」

「……っ 大丈夫……、入って、貰って……?」

 結局そう答えてしまったヴィヴィに、五十嵐は微笑んだ。

「畏まりました」

 匠海を呼びに行った五十嵐と入れ違いに入って来た兄は、枕元に寄ると心配そうにヴィヴィの顔を覗き込んできた。

「ヴィクトリア……、少しはしんどいの、マシになった?」

「………………」

 ヴィヴィは無言のまま、こくりと小さく頷く。

「そうか良かった。昨夜は本当に熱が高かったから、心配したよ」

「………………?」

(え……? お兄ちゃん、昨日もお見舞いに来たの……?)

 そう視線で問い掛けたが、匠海が不思議そうに微かに首を傾けたので、ヴィヴィはしょうがなく言葉にする。

「…………きの、う……?」

「昨日? ああ、2人が熱出してダウンしたって聞いて、ダッドが血相変えて「帰るっ!」って騒ぎだしてね。俺も一緒に帰宅したんだ」

 その時の父の様子を思い出したのだろう、面白そうに笑った兄から、ヴィヴィは視線を反らした。

「………………ふうん」

(じゃあ、ダッドもお見舞いに来てくれてたんだ。後でお礼言わなきゃ……)

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