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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
「先週から試合続きで、きっとホッとした途端に、疲れがどっと出たんだな」
「………………」
兄の言う通りなのだろう。
自分はもう少し体力があると思っていたが、やはり受験勉強との両立で、知らぬ間に疲労が蓄積していたのかも知れない。
微かに頷いてみせたヴィヴィに、匠海の労わる声が降ってくる。
「本当に、お疲れ様。12月まで試合ないし、少しゆっくりしなさい」
(……って言われても、ヴィヴィもクリスも、受験生だから……)
「…………べん、きょ」
上掛けに視線を向けたままそう呟いたヴィヴィに、匠海は釘を指すことを忘れなかった。
「ああ。でも、それも熱がきっちり下がってからな?」
「………………ん」
今日はやたら素直で、いつもより早く返事をするヴィヴィに気分を良くしたのか、兄は近くの椅子を持って来ると、とても嬉しそうに枕元に腰を下ろした。
「中国杯、テレビで観たよ」
「………………」
(……観たんだ……。あの、ぐでぐで演技……)
ヴィヴィは自分が情けなくて、無意識に眉尻を下げてしまう。
「なんでそんな、しょぼくれた顔をする?」
「…………失、敗」
「2連戦で疲れていたのだから仕方がないよ。その時に出来る、ベストは尽くしただろう?」
兄のその言葉に、ヴィヴィはこくりと頷く。
普段の自分であれば成功したであろうジャンプやスピン、他にも細かなミス。
してしまったものはしょうがない、今後同じことを繰り返さないように練習するまで。
散々チームスタッフに言われた事だったが、兄にも同じ事を言われ、ヴィヴィは素直に受け入れた。
「全てのエレメンツもそうだけど、今回のショートとフリー。俺はステップが好きだな。SPはエレガントで惚れ惚れするし、FPは妖艶なのに力強くて、格好良い」
ベッドの上で両腕を組んで、妹を見下ろしながらそう囁いてくる兄に、ヴィヴィはちらりと視線をやる。
「…………ほ、んと?」
「ああ。あと、緊張も疲労もしているのに、頑張って1人で立ち向かおうとしているヴィクトリアも、とても素敵だったよ」