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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章
その後も歯の浮きそうな褒め言葉ばかり並べる兄に、ヴィヴィはさすがに恥ずかしくなって微かに首を振って否定しまくった。
「じゃあ、ヴィクトリアを疲れさせてしまうから、そろそろ行くな」
ベッドに乗せていた腕に巻かれた時計をちらりと確認した匠海は、そう言うと最後にじっくりとヴィヴィの顔を覗き込んでくる。
「…………10分……?」
(もう、10分、経っちゃったの……?)
そう小声で確認すれば、匠海が頷く。
「ああ。ヴィクトリア、俺がいたら眠れないだろうから」
「………………」
兄のその言葉に、ヴィヴィは上掛けを両手でギュッと握ると、まるで拗ねたように引っ張って目の下までそれで隠した。
「もう少し、いてもいいか?」
そう囁いてくる匠海に、ヴィヴィは戸惑った様に視線を彷徨わせたが、小さく頷いた。
「………………ん」
(だって、眠くないし……。うん、そう、ヴィヴィ、今、とっても暇だから……)
「じゃあ、NHK杯で会えなかった分、いよう」
そう口にした兄の声がとても幸せそうで、ヴィヴィはまたちらりと匠海の表情を盗み見して、また目を反らした。
「………………ん」
それから30分ほど、会社で匠海と同じ部署の社員の1人が物凄く破天荒で――と、その人物の人となりや武勇伝を、兄は面白おかしく話してくれていた。
ヴィヴィもたまに短く尋ねたりして、その時間を苦痛に感じてはいなかった。
だから兄が、「ああ、時間経っちゃったな……」と残念そうに腕時計を見てこぼした時、咄嗟に強請ってしまったのだ。
「………………ちゅう、ごく」
(だってヴィヴィ、まだ、眠くないんだもん……。暇、なんだもん……。退屈な本を読むよりは、お兄ちゃんの話聞いてるほうが、まだいいもん……)
「ん……? ああ、中国杯の分も居ていいのか?」
妹の呟きを拾ってそう解釈した兄に、ヴィヴィはまた匠海をちらりと見つめる。
「……ん……」
今度はそのまま、視線を反らさずに。
ヴィヴィは大きな瞳だけを上掛けの中から覗かせ、兄に強請る。
(いいよ、いても……。だから、もっと、お話、聞かせて……?)
そう気持ちを込めて見上げれば、兄は端正な顔をこれでもかと言うほど緩めた。