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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第98章           

「ああ、可愛いな……」

「…………く、ない……」

 ヴィヴィは兄の愛でる言葉を、咄嗟に否定する。

(だって、暇に付き合わせてるだけ、だし……。第一、「毎日10分ずつ」って言い出したのは、お兄ちゃんだし。ヴィヴィ、有言実行させてるだけだし……)

 妹のその思考さえ読み取っているように、匠海はふるふると頭を振ると、また嬉しそうに囁く。

「いいや、お前は本当に、可愛いよ」

「………………」

(違う……、可愛くなんて、ないもん……)

 上掛けの下で、唇を真一文字に引き結び、ヴィヴィはそう頭の中で兄の言葉を跳ね返す。

「ヴィクトリア……、好きだよ」

 妹を覗き込みながら囁かれる、兄の暖かなその声音に、ヴィヴィはたまらずに微かに首を振ってみせる。

(そんな事、言わなくていいから……。もっとヴィヴィに。お兄ちゃんの話、聞かせて……)

 けれど匠海は、まるで抑えていた気持ちが溢れ出して止まらないといった様子で、ヴィヴィに愛を囁き続ける。

「すぐに拗ねてしまうお前も、でもころっと機嫌が直ってしまうお前も、可愛らしくて目が離せない……。本当に、大好きだよ」

「………………っ」

 ヴィヴィは苦しそうに、灰色の瞳を細める。

(だから、そうじゃなくて……っ ヴィヴィが可愛いとか、だ、大好きとかっ そういうんじゃ、なくって~~っ)

「愛しているよ」

「………………ゃっ」

 どんどん盛り上がっていく兄の告白に、ヴィヴィはとうとう黙って居られなくなり、咄嗟に小さく喚く。

 顔が熱く感じ、いつの間にか自分が真っ赤になっていることに気付いたが、兄は止めてくれなくて。

「寝ても覚めても、お前の事しか、考えられない……。本当に、愛しているんだ、ヴィクトリア」

 甘い、途轍もなく甘い兄の告白に、ヴィヴィはギュッと目蓋を瞑ると、必死に声を振り絞った。

「………………ねつ、あがるっ」

 本当に頭がクラクラしてきた。

(やだ……っ もう、ホント、やめて……っ)

 ヴィヴィは必死に抵抗するのに、耳元で囁かれた兄の言葉は、

「照れてるのか? ふ、本当に、可愛いな」

 そう、まるで煽るような言葉で。

「……~~っ」

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