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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
朝食を摂りクリスと勉強に励んだヴィヴィは、ダイニングでランチを摂りながら窓の外を眺めていた。
「雨、止んだね……」
クリスのその問いに、ヴィヴィはこくりと頷く。
朝比奈が給仕してくれる和食のランチを、まるでリスのように凄いスピードで咀嚼して平らげたヴィヴィは、早々に席を立つ。
「ヴィヴィ……?」
「えっと、ちょっと行ってくる……。午後からも、クリスの書斎でいい?」
「うん……。後でね……」
クリスと別れたヴィヴィは、その足で玄関ホールから庭へと出た。
まだだいぶ吹き付ける風は強いが、あれ程降り続けていた豪雨はすっかりと治まっていた。
早足に向かったのは庭の一角。
1つの株の前で立ち止まったヴィヴィは、ワンピースの裾を気遣いながらしゃがみこむ。
兄が植えてくれた、ペール・ギュントの薔薇の苗。
前に見た時と何ら変化なく、成長も衰退もしていないそれに、ヴィヴィは薄い胸をほっと撫で下ろす。
花壇の水はけも良いみたいで、少しだけ周りに水溜まりが出来ているくらいだった。
「……君……、生きてる……?」
ヴィヴィはそう話し掛けながら、人差し指で棘を湛えた枝先をつんつんと突く。
もしかしたら、また台風が発生するかもしれない。
今年の冬は暖冬なのかそうでないのか、ヴィヴィはまだ知らない。
「……ねえ……、ちゃんと……」
ぼそぼそとまた薔薇に語り掛けるヴィヴィに、台風の生み出した生暖かい強風がびゅうと吹き付け、その先を呟くことを遮った。
まるで「その先は口にするな」と神様に言われている様な気がして、ヴィヴィは薄い唇を噤む。
しゅんとしょげた表情を浮かべたヴィヴィは、また指先でつんつんと枝を突く。
(君は、ちゃんと、咲いてくれる……?)
そう心の中で、問い掛けながら――。