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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
就寝準備を整えたヴィヴィは、今夜がとても冷え込むことを朝比奈から聞かされ、身体が温まるハーブティーを飲むことにした。
ジンジャー、レモングラス、マリーゴールドを同量ずつブレンドしたそれは、お風呂で暖まった身体をさらに芯からホカホカにしてくれる。
「朝比奈、今日はもう寝るから」
お茶を飲み終えたヴィヴィは、カップをテーブルに戻すと、そう朝比奈に伝えた。
「匠海様とのお話の時間は、本日はございませんか?」
「うん。事故渋滞に巻き込まれて、帰りが1時間後になるって連絡が来たの」
「さようでございますか。では暖かくしてお休み下さいね。おやすみなさいませ」
無駄のない所作でテーブルの上を片した朝比奈は、微笑みながらそう言うと、リビングから退室する。
「うん、おやすみなさい」
そう返したヴィヴィは立ち上がり、寝室に下がろうとしたが、ふと足を止めた。
ゆっくりと兄の私室の方を振り向いたヴィヴィは、一瞬の躊躇ののち、そちらへ向かって歩き出した。
境界線を抜け、兄の書斎の照明を点ける。
いつも自分が使っているキャスター付きの椅子に座ろうとしたヴィヴィだったが、今日は何を思ったか、兄の革張りの椅子に腰を下ろした。
このまま1時間近く兄をここで待つには、自分の使っている椅子よりも兄のそれのほうが、座り心地が良さそうに見えたのだ。
(なんでだろう……。なんか、今日は、お兄ちゃんの顔、見たい気がするの……)
自分でも何故かは分からなかったが、恐らく “事故” という単語を目にしてしまったからというのも、理由のひとつだろう。
匠海に対して今のヴィヴィは、おそらく恋愛感情はもう無いが、それでもとても大切な家族の一員である事には変わりない。
もしや事故の二次災害に巻き込まれてやしまいか? と不安に思うのは当然だろう。
ヴィヴィは自分の気持ちをそう結論付けると、リクライニングの利いた椅子にぐっと華奢な背を預け、兄の帰りを待つ事にした。