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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第22章
松濤のリンクに管弦楽の音色の余韻が木霊する。
そのリンク中央で最後のポーズをとりフィニッシュしたヴィヴィは、四分滑りきったことで乱れた息を堪えながらゆっくりと腕をおろした。
そしてリンクサイドのコーチ陣のほうを静かに振り向いた。
その表情は、押し並べて険しい
「………………」
ヴィヴィは凍りついた場の空気を肌で感じ取り、察した。
皆の戸惑った反応を見れば一目瞭然だ。
自分は、失敗した――
ヴィヴィはぐっと下唇を噛み締めると、己の行いの責任を潔く取ろうと皆の待つフェンスまで滑って行った。
フェンスを挟んでヘッドコーチのジュリアンの前へ立つ。
ヴィヴィを凝視した彼女の体からは、まるで怒りの炎が立ち昇っているかのようだった。
引き結ばれた娘そっくりの薄い唇は微かに震えている。
数十秒後、沈黙を破ったのはジュリアンだった。
「これをしに……五日間もの間、ロシアへ行っていたの――?」
場をさらに凍りつかせるような、静かだけれどヴィヴィを責める厳しい声。
「…………はい」
ヴィヴィは声が震えそうになるのを必死に堪え、目を逸らさずはっきりと返事をする。
その途端、ジュリアンの顔がさっと朱に染まった。
フェンスに置かれていた彼女の右手が高く振り上げられる。
殴られる――
そう悟ったヴィヴィだったが、何故か怖いとは思わなかった。
その灰色の瞳は真っ直ぐにジュリアンへと向けられ、自分の勝手な振る舞いと、周りの信頼を裏切ったことへの罰を甘んじて受けようと微動だにしない。
ただ――
(ジャンナ……ごめん――)
自分のせいで共犯にしてしまったジャンナの評価は、ジュリアンの中で確実に下がったはずだ。
もしかしたら今後一切、彼女に振りつけを依頼することは無くなるのかもしれない。
ぐっと喉が詰まり、巻き込んでしまった後悔の念を堪えようとしたとき、ジュリアンの振り上げられた右手がヴィヴィめがけて振り下ろされた。
「きゃっ!?」
周りにいた女性スタッフだろうか。小さな悲鳴が鼓膜を揺らす。
痛みより先に訪れたのは揺れる視界。
目の前のジュリアンの顔がぶれる。
そして両頬から感じる鈍い痛み――。
(え…………?)
何故左頬を叩かれた筈が、右頬まで痛いのだろう。