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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
「もう、10分経ったから、行くな。ちゃんと暖かくして、寝るんだぞ?」
今日は砂時計を使っていないにも関わらず、兄は時間をちゃんと計っていたらしい。
その冷静過ぎる兄の対応に、ヴィヴィは戸惑いながらも小さく頷いた。
「おやすみ、ヴィクトリア。良い夢を」
端正な顔に優しい微笑みを浮かべた匠海は、そう就寝の挨拶を述べると、ベッドから離れていく。
「…………おやすみ、なさい」
小さな声でその背中に挨拶を掛けると、匠海はちらりとこちらを振り返って微笑み。
そして静かに扉を閉めて出て行った。
広い寝室のベッドの上、ぽつんと残されたヴィヴィは1人、その場に佇んでいた。
兄が出て行った寝室の扉をじっと見つめていたが、やがてその瞳は何かを諦めたかのようにゆっくりと視線を落としていく。
「………………」
幼い躰を使って実の兄を誘惑する妹。
それを静かに見つめているだけの大人の兄。
兄に期待するのが怖くて、
裏切られるのが辛くて、
その時のヴィヴィは、袋小路に追い詰められた小動物の様に、完全に自分を見失っていた。
11月2日(月)。
今日1日のスケジュールを終えたヴィヴィは、もうすっかり日課となったエプソムソルトの足湯に浸かりながら、小さな頭の中で思考を巡らせていた。
(う~~ん。今日もストレッチっていうのは、説得力、無いな……)
何せ昨夜は「リンクでストレッチする時間が足りなかった」という口実を使い、兄に「ちゃんとしないと駄目だよ」と忠告されたばかりだ。
金色の頭を捻りながら「う~ん……」と唸っていたヴィヴィだったが、
(あ、良い事、考えた……)
ストレッチの代替案を思い付き、近くに置いていたiPadを手に取る。
ネットで調べ物をするヴィヴィは、はたから見たらいつもと同じく、能天気にしか見えないだろう。
けれどその心の中は暗く淀み、気持ちも深く落ち込んでいた。
灰色の瞳は微笑むように細められているのに、そこにいつもの様な輝きは無い。
「お嬢様、そろそろ10分経ちますよ?」
クリスの部屋と繋がる扉から入ってきた朝比奈にそう促され、ヴィヴィは「は~い」と素直に返事をし、濡れた脚をタオルで拭う。