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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
「そんなことないよ。ヴィクトリアは、素直で良い子だよ」
まるで昔の心底優しかった兄の様に、妹を愛おしむ匠海の言葉を、ヴィヴィは受け入れられずに視線を落とした。
「…………うそ」
(ヴィヴィが素直な訳ない……。今だってお兄ちゃんの言う事、信じようとしてないもん……。お兄ちゃんの言動に、期待しない様に、自分を抑えてるもん……)
「本当。ヴィクトリアは小さい頃から、素直で、明るくて、屈託なくて、人懐こくて、本当に可愛い……。そういう芯の部分は、ずっと変わってない」
「………………っ」
兄が評する自分と、今ここにいる本当の自分との差があまりにも激しすぎて、ヴィヴィは居た堪れなくなり、きゅっと白いシーツを握り締めた。
そんなヴィヴィに、匠海が静かな落ち着いた声で呼び掛けてくる。
「ヴィクトリア?」
「……な、なあに……?」
恐るおそる視線を上げたヴィヴィを覗き込みながら、匠海が微笑む。
「愛しているよ」
「……――っ」
「俺はそのまんまのヴィクトリアが大好きだから、だから――」
そこで何故か言い淀んだ匠海に、ヴィヴィは不安そうに微かに首を傾げる。
「だから……何……?」
「いや。何でもないよ」
「…………そう」
静かな声でそう呟きながら、また視線を落としたヴィヴィに、匠海が暖かな声で呼び掛ける。
「ヴィクトリア……、俺を見て?」
「………………」
兄に促されてゆっくりと顔を上げたヴィヴィに、匠海は笑みを深める。
「お前が不安なら……。いや、信じてくれるまで、俺は何度だって言うよ。ヴィクトリアを好きだ、ってね」
「………………」
匠海のその愛の言葉に、ヴィヴィは苦しそうに瞳を歪めた。
何度言われても、幾度愛を囁かれても、自分はもう決めたのだ。
お兄ちゃんを信じない。
お兄ちゃんに期待しない。
そう、決めたのだ。
――自分が傷つきたくないから。
「10分経ったね。ゆっくり休むんだよ、おやすみ」
ぎしりと音を立ててベッドから立ち上がった兄は、最後にヴィヴィの顔を覗き込むと、そう言って寝室を出て行く。